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アニエが眠りから覚めると、そこはか弱いランタンの灯す地下室であった。
俯せに両腕を縄で縛られた彼の頬は、湿った埃で薄汚れている。
「小一時間気持ち良さそうに寝ていたな」
丸椅子に腰掛けるザデットが憐れな虜囚を見下ろす。
「普通の人間が拳銃一丁のみを携えて、
単身でシグマスイーグルに立ち向かおうとはしないだろう」
興奮を感じ取れる声色に、アニエは嫌な予感がした。
「君はもしかして、巷で『政府の用心棒』と噂の
”記憶の電子魔術師”かい?
何でも指で触れた人の記憶を消せるとか」
裏社会の情報網は決して侮れない。
アニエから滲み出る強者の様相も、却って正体を匂わせていたと言えよう。
「まぁ、この質問はそれほど重要じゃない」
煙草を口に差し、ザデットは徐に立ち上がった。
辺りに吐き散らされる白煙が、総督としての貫録を際立たせる。
「で、誰が君をここまで? 大統領が直々に?」
答えはなく、ささやかな息が文言の代わりに漏れるばかり。
「じゃあ、どうやってアジトの場所を割り出した?」
偽りの穏やかさを前にしても、乾いた口は固く結ばれたままだった。
「だんまりを決め込む奴に用はない。殺れ」
見限りに応じて、最も近くにいた工作員の拳銃がアニエを狙う。
奥に身を潜める鉛弾が彼の瞳に猛々しく映ったが、
その背景は光をまるで失っていなかった。
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