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 並々ならぬ覇気に押され、ザデットが些か及び腰になっている。 「なんだ、私の訊きたい情報を記憶ごと消そうってか?」 「記憶は消すだけが能じゃない。新たに創ることだってできるんだ」 アニエは頭と触れ合う指の本数によって、記憶魔術を使い分ける。 一本では消去(リセット)。二本では──。 「瞬間構築(インスタント・コンストラクション)No.063 ファイター」 指先の放つ波動がコンマ数秒で脳全体に浸透する。 活性化した海馬は波動に内蔵された識別暗号を基に、 特殊な短期記憶を即座に形成していった。 「肉体は記憶を頼りに動く。  根幹を成す記憶さえ変えられれば、人間の可能性は無限大さ」 怪我を負っていたアニエの右腕には超弩級の力が漲り始め、 早々に残りの縄が木っ端微塵に裂断された。 彼は身体的自由を一気に取り戻し、宙返りで跳ね起きる。 そのまま流れるように工作員へ踵落としを喰らわせると、 駄目押しで強烈なボディーブローをお見舞いした。 「効果は数分しか持たない。  また、この後24時間は同じプログラムを組み込めないと来ている」 アニエの足元では、先ほどの工作員が白目を剥いて気絶していた。 瞬間構築は消去に比べて体力の消耗が激しく、身体に相当な負担が掛かる。 その場に立っているのがやっとのはずなのだが、 彼は懐かしい煙草の味を悠然と嗜んだ。 「だから、3分で始末してやる。利き手を使えないハンデ込みだ。  かかってこいよ」
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