92人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
並々ならぬ覇気に押され、ザデットが些か及び腰になっている。
「なんだ、私の訊きたい情報を記憶ごと消そうってか?」
「記憶は消すだけが能じゃない。新たに創ることだってできるんだ」
アニエは頭と触れ合う指の本数によって、記憶魔術を使い分ける。
一本では消去。二本では──。
「瞬間構築No.063 ファイター」
指先の放つ波動がコンマ数秒で脳全体に浸透する。
活性化した海馬は波動に内蔵された識別暗号を基に、
特殊な短期記憶を即座に形成していった。
「肉体は記憶を頼りに動く。
根幹を成す記憶さえ変えられれば、人間の可能性は無限大さ」
怪我を負っていたアニエの右腕には超弩級の力が漲り始め、
早々に残りの縄が木っ端微塵に裂断された。
彼は身体的自由を一気に取り戻し、宙返りで跳ね起きる。
そのまま流れるように工作員へ踵落としを喰らわせると、
駄目押しで強烈なボディーブローをお見舞いした。
「効果は数分しか持たない。
また、この後24時間は同じプログラムを組み込めないと来ている」
アニエの足元では、先ほどの工作員が白目を剥いて気絶していた。
瞬間構築は消去に比べて体力の消耗が激しく、身体に相当な負担が掛かる。
その場に立っているのがやっとのはずなのだが、
彼は懐かしい煙草の味を悠然と嗜んだ。
「だから、3分で始末してやる。利き手を使えないハンデ込みだ。
かかってこいよ」
最初のコメントを投稿しよう!