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アニエの不敵な態度を受けて、ザデットは露骨に怒りを募らせる。
「シグマスイーグルも見くびられたものだ。お前ら、容赦しなくていいぞ」
総督の号令に従い、四方八方から工作員が飛び掛かった。
鬼気迫る集中攻撃を、アニエは無駄のない身のこなしで華麗に捌き切る。
右腕が用をなさない不利局面でも、
蹴り技を主軸に次々と相手を瀕死に陥れていった。
そして、彼らを押し倒す際には必ず、いずれかの三本指をその頭に滑らせていた。
「どいつもこいつも使えねぇな。どけ!」
手下の不甲斐ない有り様に痺れを切らしたザデット。
彼の撃ち出した四発の銃弾は、螺旋回転の駆動力で空気の海を驀進し、
恐ろしい速さで標的との距離を詰めた。
このような危機的状況においても、アニエの表情には達観した余裕が垣間見える。
「人間の記憶容量には限界がある。
だが、短期記憶であれば、相当な数を詰め込める」
そう言い放つと、またも二本指が脳に繋がった。
「瞬間構築No.089 ヨガマスター」
アニエの膝が鋭角で曲がり、銃弾の下を軽やかに仰け反る。
それはまさしく軟体動物にも劣らないしなやかさであった。
「小賢しい野郎だ! このっ……」
「瞬間構築No.022 ガンマン」
ザデットが改めて引き金に指を掛けるより早く、
アニエが更なる短期記憶を形成する。
刹那の進化を遂げた彼は、工作員の落とした拳銃を拾い、
すぐさま下手から発砲に至った。
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