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西部劇さながらに撃ち出された銃弾は、
寸分の狂いなくザデットの四肢を掠める。
「敢えて急所は外してやった。跪くのはあんたの方だぜ」
致命傷を負わずとも、ザデットは自ずと膝から崩れ落ちた。
「くそっ!」
諦めの悪い彼は痙攣する手で、
置き去りにされた拳銃を手繰り寄せようと試みる。
ところが、それを遠慮なしに踏みつけ、
ひいてはザデットへ銃口を突き付ける者がいた。
「まさかお前ら……私を裏切るのか?」
ザデットの挽回の芽を摘み取ったのは、
かつて彼の言いなりとなっていた工作員だった。
他の者も皆、今にも親分を殺せてしまいそうな冷酷な眼を宿している。
この不可解な現状を、アニエは微笑みを浮かべて説明した。
「手下を蹴散らす際に、小細工を施させてもらったまでだ。
簡単に言えば、記憶の上書きをした。あんたを敵と見做すようにな」
驚嘆に操られ、肩を震わせるザデット。
「……負けた。快楽に溺れた私の負けだよ。反逆は敗北を喫した……!」
座り込む彼は怯えながらも、血に濡れた右手をアニエに差し伸べた。
「君ぐらいの実力者なら、政府を潰せそうなものなのに。実に勿体ない」
「あんたはやり方を間違えた。それに……」
アニエは煙草を介さず、凍てつく空気を肺一杯に吸い込んだ。
それをゆっくりと吐き出しては、哀しげな溜め息に色を変えていく。
「今はまだその時じゃない」
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