期限を斬る―賞味斬刀。パンはパンでも斬れるパンってな~んだ。30歳で死ぬ女

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 食神歴XX二十一年。ギルドリョウテイカイとギルドトレランスが空白地帯の所有権をめぐって戦争をしていた。 「パン剣!」  男は長くて固いパンを右手に持ち、やわらい丸パンを左手を埋め込むように装備していた。それは剣と盾であり、食武器と言われるものだった。 「てやあ!」 「ふせぐ!」  ポフッ! とパンを丸パンで防ぐ。そんなやりとりがいたるところで起こっていた。  はじまりは食神歴XX零零年。食神が作りし平和協定を、一人の神が、「抑制された自由は真の平和でない」っと声高々に宣言したことからだ。食神は邪神と言われ、首都ハザールは一夜にして攻め落とされた。 「くそ! なんだってんだよ!」  戦場のさなか。ナイフ程度の大きさのパンを握りしめた少年は戦場の最中、鍋を兜の代わりにつけて、戦っていた。いや、正確にはトレランス軍の死体から金品を漁ろうと戦場に近づいたら、リョウテイカイの伏兵の突撃に巻き込まれ、トレランスの野営近くで必死に逃げまどっていた。敵か味方か。大きな大人たちは汚い身なりの少年を鬱陶しいっと怒るようにパン剣を振り下ろしてきた。 「わああああああああ!」  なんとか持ってるパンナイフで防いだ。 「邪魔だ! 餓鬼が! 殺すぞ!」  そのときだった。スパン! とパンが真っ二つに切れた。 「そんな馬鹿な!」 「食神のパンが斬れただと!」  長いマフラーを衣服のように巻き付けた少年が立っていた。その手には歯がのこぎり状の刀を持っていた。 「たすかったよあんた! トレランスの兵隊さんかい?」 「……隠れていろ」  子供は男の背後に回った。 「期限を斬る」  そう言って、男は次々にリョウテイカイの兵士たちの食武器を斬っていく。まっぷったつに、へし折るように、叩き潰すように、男の刀はありとあらゆる斬撃を繰り出した。男の動きは人間の域を超える速さだった。戦場を駆けるだけで、食武器が次々に斬られていった。 「す、すげえ」 「勇者だ! トレランスに勇者が現れたぞ!」  少年が、トレランスの兵士たちが声を上げ、驚きと喜びの声を上げた。  武器をなくしたリョウテイカイはチリ尻になって敗走の徒になった。  すべてのリョウテイカイの武器を切り裂いた男は肩に置き、息一つつくことなく立っていた。 「後始末は俺たちがする! あんたはそこで休んでてくれ!」  一人のトレランスの将校はそういうと、配下の兵士たちへリョウテイカイの連中を殺すように命じた。  ニヤリ。男は肩から刀を降ろすと、近くにいたトレランスの食武器を切り裂いた。トレランスから動揺の声があがったが、お構いなしだ。 「どっちの味方なんだ!」  戦場を駆け、日が暮れるころには両軍とも武器がなくなって、途方に暮れていた。勝者はどちらだったのか。今となっては誰にもわからなかった。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆  邪神歴XX四十三年。夕暮れ時。荒野の外れにぽつんと一軒家があった。村の方では畑がやせ細り、食うものも困るはずだが、そこに住む女は肉付きもよく、スタイルもよかった。女は一人の男が来るのを待っていた。 「帰って来るって聞いて、眠いのを我慢して起きたのに、やつはまだ!」  女は待つのも暇だと思い、久々に料理をすることにした。もてなしで母親の料理を作り、懐かしんで泣いてもらうのだ。彼はポテトが好きだと通りすがりの親切な女神様みたいな人に教えてもらった。「金髪碧眼でまるでおとぎ話の豊穣の神様のような人だったの」 ほかにも料理が好きで熱心に研究もしていたそうだ。剣道場が暇だったから、一人で研究していた。後生まで大事に料理のレシピを懐に入れて、死んだのはなんとも哀愁を誘った。私はそんな男に興味をもった。  今日やってくるとさっきの通りすがりの人に聞いたのだが、一向に来る気配はなかった。  テーブルの上にはポテトサラダやじゃがいもの煮っころがしとか、帝国の通販でニッポン料理なるものを取り寄せたものを全部温めた。作ったと言えばまあ、「美人な私が言えばどんな男も手料理と勘違いしていちころよ!」私の願いも聞いてくるはずだ。 「料理が冷めちゃうじゃない」  そういえば、待ってて気づいたが、スプーンとか出すの忘れてた。日も暮れるし、家から箸とかも出して食べてしまうかっと思った時だ。 巨大な六芒星が目の前に現れた。青い光を放ち、中心より、男がでてきた。「帰還は成功したようね」 「ここは……天国か?」  目の前の美人な私を天使とでも勘違いしたのだろうか。「私はツインテールで、完璧な美少女なの。ピンク色でよく男たちから声もかけられたわ」 「おかえりなさい。リツさん」 「俺の家で何をしている?」 「あなたは幸運よ。今日は、私の手料理が作ってある! 感謝して。本来なら、今、リツさんは空腹で倒れるはずなの」  黒い髪を後ろで上げて結んでおり、ラフないで立ちだ。家宝の刀も持っており、戦国時代にいけば侍として通用したことだろうが、彼は現代の日本の料理人だ。 「たしかに腹はすいてるが、俺をどうするつもりだ」 「どうもしないわ。ただ、友達になってほしいの。よろしくね」 「うん……ああ」そのあと小声で、「ありがとうって聞こえた!」 「あらためて、俺はリツだ。親切にしてもらって、ありがたいんだが、明日の朝には出てってもらうぞ?」 「結構よ。さあ、はやく食べて。自慢なの」  リツは椅子に座って、近くにあったポテトサラダを食べた。彼の顔がとても幸せそうだった。 「美味い」 「でしょ?」 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆ 「おはようございます」 「おはよう。朝食まで作ってくれたのか。驚いたな」  リツの好物のポテトが朝から並んでいた。ポテトサラダは特にお気に入りで、マヨネーズのしおっけはたまらなかった。 「感謝の気持ちよ」  ニコっっと彼女は笑うのがとても似合ってた。「どうして、ここにいるんだ。もしかして、俺のことが? いや、そんなはずは……」  リツは村では変わりものだった。転生者のことは村人に黙っていたが、変に日本の知識もあって、賢かったので、周りから浮きがちだった。  畑を耕せば、誰よりも効率よく働き、周りが解けない四足演算を暗算でといてみせた。彼にとってはあたりまえのことでも、ここではそれがすごいことだった。だが、村は閉塞的でそんな彼を受け入れてくれるわけなく、いつしか彼は一人で芋を畑で耕すことが多くなった。そんなとき、声をかけたのがタケカワといやつだった。いつも夕暮れになると、ふらっと消えてしまった。最初は幽霊かと思ったが、やつと話すことは楽しくて、いつしか細かいことはどうでもよくなった。そのうち、畑も手伝ってくれて、とても嬉しかった。タケカワと芋について話すことが幸せだった。だが、村長にタケカワと遊んでいるのをみられて、すごい剣幕で怒られて、「俺は殴られた」タケカワは泣いて、詫びたが、二度と会わないことを約束されられて、あれ以来会っていなかった。「なぜだろう。あの少年のような面影はないが、タケカワのような気がする」 「なあ、お前タケカワなのか?」 「人違いよ! それよりも、仕事に行かなくていいの?」 「あてが外れてな。しばらくは情報が入るまで家で休もうと思ったんだ」 「なら、どこかでかけよっか!」 「でかけるってちょ、おま」  リツは手をしっかりと握られて、引っ張られた。いまだにこういったものに慣れなくて、リツは顔を真っ赤にして、体がガチガチになった。 「私はショウよ。よろしくね!」  出かけたのはいいが、何もない荒野を進むショウに一抹の不安を覚えた。「こっちよ!」まさか道に迷ったのかっと問おうとしたそのときだった。 「なんだこれは」 「驚いたでしょ」  一面湖だった。この荒野をリツはよく知ってる方だと思っていたが、まだまだ世の中知らないことも多いのだなっと関心した。 「さ、泳ぎましょ!」 「え」  バサーっと着ていた服をショウは脱いだ。リツは恥ずかしくて、思わず両手で目を覆った。 「ふふふ。リツのえっち」 「ちょ。俺はそんなんじゃ……」 「はい。これ。リツの水着よ」 「どうしてそんなものを?」 「さあ、どうしてかしら」  ただ、彼女は笑うだけで答えてはくれなかった。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆  なんやかんやショウがリツの家に居座って、三日が経とうとしていた。 「家まで送るよ。村のどの辺だ?」 「今日は遅いからまたあしたにしよ」 「……そうだな」  機会をみては家に返そうとするも、口実をみつけて逃げられてしまった。 「それよりも、親御さんは心配してないのか?」 「あ! お風呂沸かすわね! 背中も流すわよ!」 「うん……ああ」  一体何を考えてるのかリツにはわからなかった。 「なあ、いつまでいるつもりだ?」 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆  それから、一年がすぎた。リツとショウは恋人になって、同棲するまで仲良くなった。リツは結婚も前提に考えるようになった。そんなある日、ショウが30歳になる前夜のことだ。 「なあ、ショウ。俺たち、このまま上手くやってけると思うんだ」 「うん……」 「明日はショウの誕生日か。何かほしいものとかあるか?」 「……」  しまったと思った。人の誕生日なんて祝ったことなかったから、何か間違ったのかとリツは思った。 「秘密があるの……」 「ああ、そうか。誕生日って驚かす感じの方が嬉しいのか」ふふっと納得してしまった。 「違うの! そうじゃない…そうじゃ」  ショウは一粒の涙をこぼした。それは地面に落ちると、音もなく消えた。 「いままでごめんなさい。騙すつもりじゃなかったの」 「一体、どうしたんだ? 悲しいのか?」  ショウはすすり泣くだけで、答えてくれなかった。リツはそんな彼女をみかねて、近くにより、黙って抱きしめた。 「なあ、理由を教えてくれないか。タケカワ」 「違う! 私はショウよ!」 「タケカワはな。昔からそうだったよ」 「え」 「少年みたいだったけど、心は乙女だった」 「……」 「見た目が変わってもお前はお前だよ。それにな、最初はわからなかったけど、ずっと傍にいたんだ。化粧してても、顔くらい誰だかわかるよ」 「……」 「結婚しよう。タケカワ。俺はお前が好きだ」 「うぁあああああああああああああああああああああん!」  タケカワは大泣きした。リツはゆっくりと彼女の頭を落ち着くまでなぜた。涙で髪が乱れていたから、そっとリツは整えた。 「話してほしい。どんな真実でも俺はお前を嫌いになんかならないから」 「うん……でも……でもね。きっと別れが辛くなる」ポロポロと涙がこぼれた。リツは服の袖でやさしく拭いてあげた。 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆  レッドーサはタケカワを男から、本物の女にする代わりに、命の賞味期限を三十歳にした。彼女のお腹には縫合したあとのように黒い線が斜めに走っていた。そして、左上に四。右下に四とドス黒く皮膚が変色していた。洗っても落ちないっとタケカワは言っていた。 「私は明日、死ぬの。これは呪いよ……」 「そんな!」  リツはやるせない気持ちになって、壁を拳でたたきつけた。っとその時だった。  家のドアをノックする音がした。リツが玄関の鍵を開けようと向かったら、ガチャリと扉が開いた。 「おや、なんだか辛気臭いねぇ。お邪魔だったかい」 「あんたは女神ムスヒ!」 「転生して白い空間で会って以来かねぇ。そっちの嬢ちゃんと上手くやれてるようでよかったよ」 「なあ、あんたならタケカワを助けれるんじゃないのか! そのために俺を彼女に会わせたんだろ?」 「その子からレッドーサのどす黒くて汚い臭いがしたからねぇ。もちろんただでとはいわないが助けようと思ってたよ。あんたがレッドーサを殺すのならね」 「お、俺は殺しはやらない。料理包丁を握ったときにそう決めたんだ」 「ああ、そうかい。なら、あたしゃ帰るよ」 「待ってくれ!」  ムスヒは背中を向けて帰ろうとしたので、リツは廊下の壁に手を付けて、通り道を防いだ。 「壁ドンかい。粋だねぇ。わたしゃレッドーサさえ殺してくれれば、別にあんたとつきあってもいいんだよ。その娘が死んでもね」 「ふざけるな! 俺はタケカワを救うんだ! だから、レッドーサを殺さない方法も教えやがれ!」 「はぁあ。話にならないね」  ムスヒは軽く手を上げた。薄く手が輝いた。それだけでタケカワは壁に激突し、身動きできなくなった。 「な、なにを!?」 「いいことを思いついたよ。そうさ。最初からこうすれば良かったんだ」  ムスヒはゆったりと散歩でもするようにショウの目の前まで来ると、首を片手で掴んで持ち上げた。 「く、苦しい」  ショウは両手でムスヒの腕を引っ搔いたが、彼女の白い肌には傷一つ入らなかった。 「さあ、リツ。よーくみてな。今からこの娘が死ぬところを。そうしたら、あんたの気も変わるだろうさ」 「や、やめ……て」  タケカワは必死に抵抗するも、彼女はついにだらりと両手を垂らした。 「て、てめぇええええええええええええええ!」  リツは全身の血が煮え立ち、頭の中が真っ白になった。リツの魔法の拘束が解けた。彼の怒りに魔法すらも恐れをなしたのか。 「ぶっころす!」  ムスヒまで三メートルはある距離を、リツは一気に駆け抜けた。 「律神剣一刀流! 棺(ヒツギ)!」  無数の黒い触手が剣より生まれた。「律神剣一刀流は日本の陰陽師が妖しを斬る仕事がなくなって、戦国の世に人斬りに活路を見出した異門の剣術さ。人外を斬るための呪いの技を人に向ければどうなるか」 「拘束剣。悪くないね。だけど、遅い」  ムスヒの掌底をカウンターで顔にくらい、リツは地面に倒れた。だが、刀は手放さずに、しっかりと右手に持っていた。 「おや、こんなに弱かったのかい。わたしゃあんたに入れ込んでたんだけど、がっかりだよ」  ムスヒは不用意にもリツに近づいた。それがいけなかった。 「律神剣一刀流! 屍王(しかばねおう)!」  リツの持つ刀の刀身が消えると、ムスヒの足元から無数の白い刃が生まれた。 「驚いたね。てっきり死んだのかと思ったよ」  だが、ムスヒはふらつくようにすべての攻撃をかわし、リツへと迫真してみせた。 「ゲームエンドだね。無限創造術! 神霊魂波(しんれいこんは)!」 「律神剣一刀流……」  ムスヒの掌底から黄金の波動が一直線にリツへと向かった。リツは刀を受けの大勢のまま、光の本流に飲み込まれた。 「すごいね。耐えてみせたか。だが、もうそんな体じゃ殺せやしないね」  リツは全身ずたずただった。両手にいたってはぼろ雑巾のように垂れ下がっていた。 「まだだ! 俺の技はまだ終わってねえ! 律神剣一刀流! 黒人形!」  ムスヒの体から無数の血が噴き出した。 「なん…だと」 「カウンターのお返しだ!」 「ふふ。あたしの負けだ。さあ、殺すといい」 「ふざけんな」  リツは頭を引くと、ムスヒの頭へ反動をつけて頭突きした。 「いたっ!」  ムスヒは少し涙目だ。 「殺しはしない。そんなことよりも、タケカワを助けろ」 「タケカワは死んだよ」  すぐにムスヒは冷静さを取り戻した。そこにはさきほど、頭を両手でおさえた痛たましい姿はどこにもない。 「嘘いいやがれ! 俺を転生させたんだ! つまり、あんたは人の命を救うことができる! そうだろ!」 「ちっ」  ムスヒは舌打ちすると、タケカワへと近づくと、魔法を唱えた。 「無限創造術! 転生!」  タケカワは地面に倒れたままだ。ただ、青白い炎のようなものがタケカワの体からでてくると、ゆらゆらとそのまま屋根の向こうへと消えてしまった。 「お、おい! どういうことだ! タケカワを蘇すんじゃんかったのか!」 「彼女は間違いなく蘇るよ。過去の世界でね」 「ざ、ざけんな!」 「ははは。彼女を救いたかったら、レッドーサを殺すことだね。じゃあ、そろそろこの物語も終わらせようかね」 「一体何を…言って…るんだ?」  ――ザシュ! リツは己の体に起こったことがわからなかった。自分の刀がリツを真後ろから刺し貫いていた。右手に持ってた刀は消えていた。口から血があふれてむせこんだ。 「カウンターだよ。私の魔法は時間も超えるからね。だけど、レッドーサ。あの男だけは殺せなかった。どうしてだろうねぇ。ねえ、リツ。過去に行ったら、あの男を必ず殺すんだよ。あとそれから、タケカワだけどね。今度も女の子だよ。呪いはないけど、ある意味呪われた人生かもねぇ。顔もそのままだから、安心して助けるといいよ」 「ふ、ざ……けんな」  そうして、リツは地面へと崩れ落ちた。 「そうだ。もう言っても仕方ないことだけど。リツ。転生しても、あんたの顔もそのままだし、力もそのままさ。もし、本当にレッドーサを殺そうと思うなら、さらなる高みを目指すことだね。期待してるよ。ははは」
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