この狭い世界で

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この狭い世界で

 生きることは食べることだと、何処かで誰かが言っていた。  食べた肉は胃から腸へと通り過ぎ、血や肉となって身体を形作っていく。何かを食べなければ、生きてはいけない。命を食べなければ、生きてはいけないのだ。  詰め込むように口に入れた干した肉は、なにも味がしなかった。あくまで、身体を動かすためのカロリーを摂取する。今の自分にとっては食事とは、それだけに過ぎない行為だ。生きるために食べる。ただ、それだけだ。 「なんの意味が、あるんだろうな」  答えのない問い掛けは、誰の耳にも届かない。乾いた風。荒れ果てた大地、ひび割れた道路、崩れ落ちたビル。かつてここには都市があった。生活があった。文化があった。そして、命があった。  この大地に生きる、最後の生き残り。自分がそうであるなど思いたくなくて、あちこちを彷徨い続けてきた。道中で見つけた骸の数など、とうに数えるのを辞めている。この世界の何処かに自分と同じように生きている者がいる。それだけを希望に生きてきた。 「それでも、腹が減るんだよな」  生きている。自分は生きているのだ。どんなに辛くても、苦しくても、そんなことなどお構い無しに訴えてくる空腹感が自分の命を認識させてくれる。  この狭い世界のなかで、小さく燃える命が胸の中にある。そう思えるだけで、自然と足が前に出た。
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