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やっと結婚しよう、と貴方が言ってくれた頃、貴方は事故に遭って全盲になってしまいました。
それまでしていた印刷会社の仕事もやめねばならず、貯金も尽きて、野垂れ死ぬしかない、二人で心中しよう、と私が心に決めた頃、貴方が全盲になる前に応募していた小説の新人賞が決まり、なんとか、命を繋ぎました。
その小説は『四月の雪』と言って、登場人物は二人だけ。全盲になる運命を知った主人公が、目の見える内に雪が見たい、と願う話。
自分が全盲になることを悟っていたかのような設定に、私は面くらい、また、この人ならそんな不思議な事もありえるのでは、と思いました。
だって、貴方ときたら、普通のところが全然ないんですもの。普通……いいえ、穢れたところが、と申しましょうか。
まず、貴方の怒ったところを私は一度も見たことがありません。ひとの陰口を叩くことも、一切ありません。
ただ一度、母親の死に、泣いている姿を見ました。
悲しいのかと思ったら、そうではなく。
『これでやっと息ができる』
そんな風に泣くのです。
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