夢に堕つ

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結局そんな貴方がお母様とどんな確執があったのか、私は知りません。ただ、そのせいで黒い服しか着ないんだ、と、意味ありげな言葉をぽつり、吐いて。貴方はいつもの貴方に戻りました。 人というのは必ず、穢れた部分を持っています。 なのに、このひとには一欠片の穢れもない。 まさに神の子。 ともかく、『四月の雪』は、瞬く間に完売となり、増刷が決まり、映画も決まり、私たちは裕福になりました。 それまでが慎ましやかな生活だっただけに、私は驚きましたが、そう言えば貴方の家は資産家でもあったものね。然程の驚きはなかったのでしょう。 そうこうしている間に、私たちは結婚適齢期をとうに過ぎ、四十になりました。 その四十の私の誕生日に、話がある、と貴方が真剣な顔で言って、一瞬別れ話かと思い、聞きたくない、とまた泣きました。貴方の前ではいつも私は泣いていました。 どうにかして! 助けてよ! と、全てを貴方に預け切って。 そんな自分を恥じていたからこそ、別れ話だと思ったのです。 でも泣き出した私に、貴方は静かに言いました。 『結婚して欲しい。結婚式を挙げたい』 と。
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