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公園のブランコに座る君と俺。傍から見たら青春の1ページ、甘酸っぱい一幕に見えるかもしれない。あいにくそんな関係ではないのだけど。
君の顔はとても穏やかで、神々しささえ感じる。いつも暗く沈んだ顔をしていたから、こんな清々しい顔もできるのかと思った。ただ……。
「気分が良い。いつも頭痛くて吐き気がして、頭と心臓に黒いモヤがあったからそれが無くなった感じ」
まるで巡礼者のように、教会の祭壇の前で祈りを捧げる人のように穏やかな雰囲気。ただ……。
「私ね、右手の小指が動かないの。いつも握力無くて物落としてたでしょ? プリントとかも床に落としたりして。鈍臭いって思われてたよねみんなに」
曲げて見せるとたしかに、棒のように動かない。
「左耳はうまく聞こえない、だから無視してるとも思われたね、みんなに。まあ何をどう思われてるかなんて私にはどうでもいいんだけど」
そんなこと、誰も気が付かなかっただろう。少し鈍臭い、暗い奴だとあまり皆近づかなかった。
「いつも思いっきり殴られてたからいつ耳が聞こえなくなったか覚えてない。指はね、なんか腕が折れて治ったら動かなくなった。不思議、折れたの腕なのにね」
苦しそうな、辛そうな様子はまるでない。淡々と、穏やかな空気で話すその様子は異様で恐ろしさもある。
「何でアレが親なのかな、って毎日考えてた。言いたくないようなこと、思い出したくもないこと、たくさんたくさん毎日毎日やられて。殴られすぎて頭がおかしくなっちゃったのかもね、私」
抵抗しない娘はストレス発散にちょうど良かったのだろう。おそらく体は全身痣だらけだ、服で隠れる位置を計算してたと思う。制服から伸びる手足には傷一つない。だが、体育は常にジャージを着ていた。プールの授業はいつも見学。
「本当に、何も計画なんてしてなかったの。はずみかなあ? なんとなく。あの時は両手縛られてなかったから」
――だから。
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