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私が人形になった理由
季節は、夏から秋へ――。
上着を羽織っていないと肌寒いと感じる陽気になった。
もう、秋になっちゃった。フラれてから半年くらい経つんだ……。
私、藤崎 陽菜乃 三十歳は、十年間付き合った彼氏に今年の春、別れを告げられた――。
半年前のその日、珍しく翔太郎(元彼)に落ち着きのある和食専門店に呼び出された。
翔太郎とは同い年、大学時代からずっと付き合っていた。同棲はしていなかったけれど、十年ともなれば、お互いがお互いのことを理解し合って、無駄に束縛とか干渉もなく、良い距離を取って付き合うことが出来ていると私は勝手に思い込んでいた。
自然に「結婚」という流れになって、家庭を築いて、子どもが生まれて、家を買って……。そんな自然の流れになることを望んでいた。
ただ、一つ気になっていたことがある。
現在、デートやお互いの家に泊っても、身体の関係を持つことがなくなった。というか、交際期間が長くなるにつれて少なくなっていって……。私は、翔太郎のことが嫌いなわけじゃなかったのに。むしろ、抱いて欲しいと思っていた。私から誘った時もあって、その度に「疲れているから」「今日はそんな気分になれない」断られてばかりいた。
でもその日、金額設定が高めの専門店の個室に呼び出されて……。
私ももう三十歳になるし、そろそろプロポーズでもしてくれるのかな……。なんて期待すらしていた。
そんな期待を抱きながら、ドキドキしながら翔太郎が来るのを待った。約束の時間より遅れて来た翔太郎は、表情が硬かった。
あっ、緊張しているんだ。
十年も付き合っているから、表情ですぐわかる。
料理がテーブルに並べられたところで、私から話を切り出した。
「ねぇ、話ってなに?」
自分で聞いておいて、どんなプロポーズをしてくれるんだろうと胸が躍っていたのを覚えている。
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