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「陽菜乃……」
彼は言葉が出てこない様子だった。
いつもは私のこと「陽菜」って呼ぶのに、やっぱり正式な時だからちゃんとした名前で呼んでくれるんだ。
ドキドキしながら彼の次の言葉を待っていた。
「陽菜乃、ごめん。別れてほしい」
ドクンと大きく心臓が鼓動した。
えっ……?
今、別れてほしいって言った?冗談……だよね?
「冗談、やめてよ?」
冷や汗が出てくる。嘘だと、冗談だと言って?
「ごめん。別れてほしい。付き合って、十年になって、いろいろ考えた結果なんだ」
どういうこと?考えた結果って何?
私の頭の中はもちろん、パニック状態だった。
「どうして?私のどこが嫌なの?十年だよ?十年。だったらなんでもっと早く言ってくれなかったの?友達は結婚して子どもだって生まれている子もいるし……。私だってそろそろ……」
結婚だと思っていたのにという言葉を言うのをやめた。
「正直、怒られると思って、何も言えなかったけど。陽菜のこと、守りたいって思えないんだ。自立しているし、俺よりしっかりしているし。資格だってたくさん持っているし。男として劣等感を感じてて」
「なにそれ?」
どうしてそれが別れの理由になるの?女の人がキャリアアップしていくことっていけないこと?
「俺は、仕事ができる女の人より、家庭を大切にしてくれる女の人と結婚したいんだ。陽菜、仕事が忙しくなってから、料理もしないし、掃除もほとんどしてないだろ?部屋だって汚いし。言葉遣いは男っぽいし。スッピンで出かける時もあるし。オシャレにも気を遣わなくなったし……」
言われていることがその通りなので、何も言い返すことができなかった。
「だから、お前のこと抱けなくなった」
気になっていたことをストレートに言われ、ズキンと心が痛んだ。
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