開店前夜

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 ぼくのバイトするコンビニ、『トウコンマートしばた店』が子どもを産んだ。 「子どもじゃない、幼生(ゾエア)っていうんだ。専門用語ではな」  連絡を受け、この地域の支部長が駆けつけてきた。寒空の下、ぼくらは二十八坪のこじんまりとした店舗を見上げる。数日前まで平屋だった屋根の上に、ひと回り小さいサイズのトウコンマートが乗っかっていた。親ガメの上に乗る子ガメのようだ。 「聞いたか。産業道路沿いのファミレスがつぶれたって話」 「ファミレスですか」  ぼくはかぶりを振った。こちとら学生、安い・多い・肉々しい店の常連である。 「ここから二ブロックしか離れてねえんだ。もともと物流関係の車が多くて、ファミレスには向かない立地だった。次はコンビニを誘致するらしい」 「コンビニ……ということは」 「ああ。こいつはそこに『出店』する気だな」  支部長はニヤリと笑った。横分けに固めたツーブロックに色付き眼鏡(目が弱いらしい)という容貌から、よくお客様に素性を怪しまれているがカタギである。  屋根の上の幼生は、甲殻類めいた()(そく)をもぞもぞと動かした。
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