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「『無意識』という可能性は?」
「え、無意識、ですか?」
「ええ」
「し、しかし……僕はここまで歩いてきたという認識があります。
自分の足で地を踏みしめていた自覚があります。旅に出る前、自分の手で荷物を準備しているのも、家族の止める声を振りきって家を出たことも全て覚えています。
【北へ向かわなくてはいけない】──これもはっきりと意識しています。
それでも『無意識』と言えますか?」
「人は、そのほとんどを無意識下で行動していると言われています。例えば……今のように、特に理由もなく耳を触りながら話をしてしまうとか」
私がそう指摘すると、彼は慌てて手を膝の上においた。
「これは癖です。普段の行動から起こるものでしょう? 僕はここまでの道中にも、向かう先にも、向かう理由にも、一切心当たりがありません」
「本当にそうだと言い切れますか?」
「え?」
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