しし座流星群の夜

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「間に合いましたね」 「待っててくださったんですか」 「えぇ、まぁ少しだけ。乗り遅れたら、この世に取り残されることになりますから」 来た時と同じ車掌がホームで待ってくれていた。 黒い電車は、よく見ると星屑みたいな小さな光の粒が車体をまとっていた。 「どうぞ、切符です。お好きな席にどうぞ」 切符にはツバメが丘という文字の隣に右を差す矢印。行先は書かれていない。 三車両あるうちの一番前の車両に乗り込み、空いている座席シートに腰を下ろすと、隣には来るときには見なかった親子が同じような穏やかな笑顔で会釈した。 言葉通りの仏様のような笑顔。まぁ、ここにいるということは、僕も含めて死人なのだが。 「こんばんは」 父親がゆったりとした口調でほほ笑む。 「お兄さん、大切な人には会えた?」 「えっと……うん、まぁ」 奈央子からは見えてなかったけれど。 「僕、自分が死んだことに気付いてなかったんですよね。だからちょっとショックだったんですけど」 「そっかぁ。私たちはこれが二回目だもんね。ね、お父さん」 「あぁ。しし座流星群の夜。よく晴れた夜。もしかしたら他の条件もあるかもしれませんが、とりあえずこの二つは揃っていないとこの電車は走らないそうなんですよ。今夜は条件が揃ったみたいでね。僕と娘も、久々に家族に会いに行けました」 「お母さん、結構年とってたねぇ。でも相変わらず優しそうだし、幸せそうだったから行けて良かったよね。会話はできなかったけど、あの犬。絶対私たちに気付いてたと思う」 「動物や赤ちゃんは見える事が多いみたいだからな。あ、美雪。そろそろ電車が出るみたいだ。すみません、急に声を掛けたりして」 確かにそうだ。三郎は僕の事が見えていた。それもあって、自分が死んでいるということに気付くのも遅れたくらいだ。 親子に会釈をし、座席を少し後ろに倒して背中を深く沈めて目を閉じた。
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