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階段を上って左側の部屋の扉を開けると、奈央子はいない。
代わりに、ベランダの窓のカーテンがふわり、ふわりとはためいていた。
「ただいま。こんな所にいたのか」
十一月とはいえ、今夜は震えあがるような寒さでは無い。
見慣れない厚手の紺色のコートを肩に掛け、手すりに両肘を乗せた奈央子は、ぼんやりと空を見上げていた。
「あっ」
奈央子が目を見開いて、僕も咄嗟に視線の先に目をやる。
流れ星だろうか。
僕が見上げた空は、田舎の、満天の星が広がるだけだった。
「ごめん。今日、早く帰るって言ったのに」
一緒に空を見上げたまま呟いた言葉は、そのまま星屑の夜空に霧散する。
返事をしない代わりに、奈央子は両腕を上げて伸びをした。
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