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「ねぇ、颯太」
奈央子が手すりに寄りかかりながら、ようやく口を開いた。
俯いた奈央子の表情は暗くてわかりづらい。コートの上から胸もとに片手を当て、ゆっくりと肩が上下する。
「奇跡って、やっぱり起きないのかなぁ」
「奇跡?」
「しし座流星群の奇跡……。颯太に話した時は大して信じてなかったけど。今年は信じてみたかったんだよね」
「あぁ、そう言えばそんな話したことあったな」
いつだったか。まだ、僕たちが大学生の頃だったんじゃないだろうか。
奈央子の親戚が亡くなった時、火葬場で皆で話していた時に聞いた話だと言っていた。
――しし座流星群の奇跡って知ってる?
まだ、僕と奈央子が「幼馴染」として付き合っていた時だ。
大学の授業のあと、バイトに行く前にファミレスで喋るのが僕らの日課みたいなものだった。
どんな内容だっただろう。当時の僕は、試験の真っただ中で参考書片手に話していたから、話半分くらいにしか聞いていなかったような気がする。
「奇跡なんかより、私は颯太と一緒に流星群が見たかったんだよね」
顔を上げて夜空を見上げる奈央子の横顔が、月明りにうっすらと浮かびあがる。
呼吸をするたびに、白い吐息がゆぅらり、夜の闇に吸い込まれていく。
「そう言えば、大事な話って――」
「ねぇ、どうして私を置いていっちゃったの?」
奈央子の声が、か細く、弱弱しく小刻みに震える。
「なんで死んじゃうかなぁ……」
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