キンモクセイ

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 『山崎さん家のキンモクセイは、三里(さんり)先まで漂い(きた)る』  そんな、どう解釈していいのやらよくわからない噂話のようなものが、(むつみ)がこの家に越してきた頃から既に流れていた。 それはまるでハロウィンのお化けについて語るように、ひそやかにしめやかに語られる。 一体誰が語っているのかすら定かではないが、なぜかキンモクセイの開花とともに囁かれ、キンモクセイが散れば噂も消える。 睦がここに越してきたのは息子の(なぎ)が生まれる前のことだから、もう五年以上は昔のことになる。 その頃にはもう山崎さん家の奥さんは美しい庭づくりに熱心で、季節が巡るごとにいい香りが漂い来るものだったが、なかでも秋の始めのキンモクセイは、とても強くとても遠くまで甘い香りを漂わすのだ。
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