心霊現象解明前夜

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 昨日と今日で何時間座り続けたか。スマホと小説がなかったら退屈で叫びだしたかっただろう。梨香子は新幹線と鈍行を乗り継いで大阪から埼玉の北部へ帰って来た。駅から歩いて二十分の場所に自宅はあるが、荷物が多いのでタクシーで帰ることにした。橋田梨香子(はしだりかこ)は二十五歳。今日は出張の帰りだ。  ロータリーにはタクシーが何台も並んで待っていた。先頭のタクシーに近づくと後部座席のドアが開く。梨香子はボストンバッグとともに乗り込む。九月だが今日は暑かったので冷房が効いている。  ここは埼玉県だ。埼玉といっても東京に近い場所ではない。上野までは各駅停車の電車で一時間半もかかる。梨香子の職場は都内に近いので通勤が大変だ。  梨香子は営業の助手だ。野尻俊太(のじりしゅんた)という三十二歳の営業の仕事を手伝っている。仕事の手を抜いたり私情を挟んだことはない。だから仕事が上手くいっているのだろう。俊太の営業成績はトップだ。  タクシーの運転手に自宅のマンションの場所を説明する。運転手は車を発車させた。梨香子は昨日の社内全体会議を思いだした。本社が大阪なので一泊二日だった。
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