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会議が行われたのは、ホテルの大会議室だ。ご丁寧にカメラマンもいて録画されていた。司会者は美容師から営業に転職してきた二十代の男性だった。入社して二年なので社員のことはよく分かっていない。
社内全体会議といっても、それは頑張っている社員を褒めたたえるお酒なしのパーティーのようで、そういうことが苦手な梨香子は辟易した。こういうことを一か月に一度行うから行方不明になる澤田のような社員もでてくるのだろう。澤田は営業成績が最下位の五十代の男性だ。妻子を残していなくなった。
タクシーは梨香子のマンションへ続く道を走る。この先を右に曲がったらマンションだ。今は二時。帰ったら自宅のパソコンで少し仕事をしよう。先月に土木コンサルタント会社の力が欲しいと言った会社の仕事を分析しておきたい。我が社の設計士とCADオペレーターに仕事を任せ、何日ぐらいでできるか。設計士にはいつも残業や徹夜をさせているけれど、仕事を取るのが営業の仕事だ。
タクシーが右折した。梨香子は言う。
「あの五階建ての白いマンションです」
「ああ、あそこ。分かりました」
梨香子はメーターを見た。千円はいっていない。ボストンバッグからお財布を出す。
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