心霊現象解明前夜

3/15
前へ
/15ページ
次へ
「今日このマンションに来るのは二回目なんですよ。もう一人は着いた途端に後部座席からいなくなっちゃって。いや、幽霊だったって訳ですよ。タクシーの運転手をしているとたまにあるんですよね」  そんなことがあるものなのだろうか。梨香子は首を捻った。もしタクシーの運転手のいうことが本当でもここで降りた幽霊は何者なのだろう。 「どんな感じの人でした?」 「五十代くらいの男の人だよ。その人もボストンバッグを持ってたな」  梨香子は澤田が頭に浮かんだが、まさか死んだわけではないだろうしここに来る意味がない。  タクシー代を払ってマンションのエントランスに行く。エレベーターの前へ行ってボタンを押した。上にいたエレベーターが降りてくる。  思えば大阪のホテルで朝食代わりにコーヒーとワッフルを一つ食べてから何も食べてない。お昼を食べるにもこれからご飯を炊いて食べるとなると三時を過ぎてしまうだろう。家にカップラーメンでもあればよかったが何もない。まあ仕事をするつもりだったのだからお昼を抜いても構わない。梨香子はエレベーターに乗って五階のボタンを押した。  部屋に入るとムッとした空気を体中に感じた。梨香子はヒールを脱いで玄関をあがり、キッチンを抜け1Kの洋室へ入る。エアコンのリモコンをテーブルから取って冷房を点けた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加