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第十二話
「遅くなってごめんなさい」恭子が小走りで駆け寄ってくる。拓海は待ち合わせ場所に約束の時間より少し早く到着したので、柱に背もたれして、スマホでネットサーフィンをしていた。
「いや、俺もさっき来たところだし、時間早いから先に昼食べるか?」拓海は朝食を食べる習慣が無いので、ちょうど小腹が空いた感じになっていた。
「そうね、何が良いかしら?」恭子は辺りを見回す。この駅は市の中心部にあり商業施設などの開発が進んでいる場所である。
「ハンバーガーでもいいか?」拓海は、大手チェーンのハンバーガー店を指した。
「うん、それでいい」恭子はニッコリ微笑んだ。
「お会計、1300円になります」女性店員がゼロ円スマイルで微笑む。拓海は、ポケットからマネークリップに挟んだ一万円札を差し出した。
「ちょっと!割り勘にしてよ!」恭子があわてて可愛い財布を取り出す。
「いいよ、これぐらい……」拓海は一万円を店員の前に差し出す。
「駄目よ!私の分は私が払うわ」恭子は頑なに拒否する。
「お前な……」拓海は少し呆れる。
「あの……お客様……」店員が困っている。後ろにも少し列が発生しているようである。
「解った、後で貰うから」拓海はため息をつきながら再度、店員にお札を差し出した。
「一万円お預かりします」店員は万札を受け取ると笑顔を見せた。
「高校生のくせに、お金いっぱいもってるのね」恭子はジロリと見つめる。
「あっ、いや……」そういえば、自分が高校生という設定を忘れていた。ポケットにマネークリップで万札を挟んでいる学生なんて、なかなか居ないだろうと苦笑いする。
「別に私の前では、カッコつけなくていいよ」可愛く微笑むとトレイを持って席に移動していった。
「別にそんなつもりは……」拓海も自分のトレイ持つと彼女の後を着いていった。
「休みの日はいつも何してるの?」恭子はフライドポテトを摘まむとポリポリと噛った。
「休みか……、一日中寝てるかな……」ストローを咥えてコーラを喉に流し込んだ。
「ふーん、そうなんだ……」なぜかニヤリと微笑む。
「なんだよ……」
「友達少ないんだね」ケラケラと笑う。彼女も同じようにストローでコーラを飲んだ。
「そういうお前だって、遊ぶ相手が居ないから俺なんて誘ったんだろ?」
「違うわよ。私とデートしたいって男子は山程いるんだからね」なぜか勝ち誇ったような顔を見せる。
「山程ね……」拓海は頬杖をつくと窓の外を見た。外はたくさんの人々が行き交っていた。その中には沢山のカップルの姿も見えた。
「……ねえ、一条は……、前の学校で彼女とか居なかったの?」
「彼女……、彼女は居ないな……」そういえは、彼女の姉である恵子と別れてから、そのような存在は居なかったような気がする。
「そうなんだ」なぜだか、嬉しそうにハンバーガーを口いっぱいに頬張った。
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