第二話

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第二話

「ああ、かったるい……」一条拓海は大きな欠伸をした。 「転校生!初日から弛んでるぞ!!」古典の教師、万代の大きな声が教室に響く。 「あっ、すいません」拓海はペコリと頭をさげた。万代は、軽く咳払いをしてから授業を再開した。「まったく、どうして俺が学生の真似なんて……」小さくため息をついた。 あの音楽室の出来事から、1ヶ月の月日が経過していた。報道では、音楽教師である梅原直美は自殺とされた。しかし、彼女が自殺する動機がどうしても見つからなかった。衝動的な物との意見もあったが、朝早くわざわざ音楽室の教室でロープで首を吊るなど不自然であった。それに、誰に聞いても彼女は、いつも明るく生徒達の人気もあり、人望も厚かったそうである。 「彼女は妊娠していたそうだ」黒崎刑事は煙草を燻らせた。 「妊娠ですか……、たしか梅原は結婚してないですよね」髭面の刑事は、机の上に並べられた写真を見つめている。 「それからな、鑑識の話によると彼女の首には二回強い圧力がかかっていたそうだ」写真を一枚つまみあげる。そこには、首に巻かれたロープが拡大されていた。 「そんな!それじゃあ、やっぱり」髭面が色付き眼鏡の奥で目を見開いた。 「殺人に間違いないな……、それもかなり稚拙な感じだがな」 「じゃあ、学校なだけに学生が犯人とか?」 「それは解らん、ただ、あの学校はかなりの進学校で色々な企業や政治家のガキ達が在学しててな……。三年生の受験を邪魔するような捜査の仕方はクレームになるそうなんだ」黒崎はこめかみの辺りを人差し指で押さえて顔をしかめた。 「じゃあ、一体どうやって犯人を探すんですか?」髭面が左の掌に、右拳を叩きつける。 「そうだな……、潜入捜査でも……やってみるか」黒崎が髭面の肩を軽く叩いた。 「潜入捜査って、高校ですよ。この時期に教師が来るなんておかしいし、まさか……、スケバン刑事ですか!?」まさか漫画のような捜査官がいるなんて聞いた事がなかった。 「まさかスケバンなんて、もっと適役がいるじゃないか。なあ、一条拓海」黒崎はニヤリと微笑む。 「えっ、まさか俺ですか?冗談!俺、今年で28ですよ!先生ならまだしも、生徒なんて!?」拓海は髭で覆われた口元を歪ませた。 「俺は知ってるんだよ。お前、自分の童顔が嫌でその髭と伊達眼鏡かけてるんだろ?」黒崎は拓海の眼鏡を外した。そこには28歳とは思えない幼い感じの瞳が現れた。「お前、生徒として潜入しろ、そして犯人を捕まえるんだ!」 「そ、そんな……無理ですよ……」拓海は、項垂れる。その刹那、書類が床に落ちる音がした。 「お、お二人はそんなご関係だったんですか?」婦警の天野が、驚愕の表情を見せた。 黒崎は一条の肩に手を添えながら、彼の眼鏡を外してその顔を覗き込んだままであった。 「はあ……」もはや、拓海の口からはため息しか出なかった。
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