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第三話
「一条君、私は委員長の麻生よ。何か解らない事があったら聞いてね」休憩時間、恭子は拓海の席までやってきて声をかけた。
「麻生……、あ、ありがとう」突然の事に拓海は驚いた。
「お前、いきなり呼び捨てかよ!」二人のやり取りを見ていた有村が憤慨している様子であった。どうやら、彼女に気があるようであった。
「あ、ああ、すまん。君は……有村……君だったかな?」拓海は記憶を辿る。
「えっ、なんで俺の名前知ってるんだ?」有村は訝しげな顔をする。
「あっ、いや、その、鞄にローマ字で……」指差した先の席に有村の鞄があり、そこには確かにARIMURAと書かれていた。しかし、本当は事前にクラスメイトの顔と名前は粗方、記憶していた。もちろん、この麻生という少女の事も覚えている。
「あんまり調子に乗るんじゃないぞ。それから……、麻生も何かされたら、遠慮なく俺に言えよ」少し顔を赤くして去っていく。人には呼び捨てにするなといっておいて、自分は呼び捨てかよと拓海は呆れる。
「はいはい、悪い奴じゃないんだけど、許してやってね」恭子は可愛くウインクした。その仕草に拓海は少しドキリとする。
(俺は高校生相手に何を……)拓海は誤魔化すように、立ち上がると教室を出ていこうとする。
「何処に行くの?」恭子が声をかける。
「トイレ」拓海は軽く敬礼をすると出ていった。
廊下には、学生達がとりとめのない話で盛り上がっているようである。
「しっかし短いな……」拓海は正直、目のやり場に困っている。自分が学生の頃はあまり気にもしなかったが、女子高生達のスカートの短さに目を覆う。「こりゃ授業に集中できんだろ」拓海は深いため息を吐いた。
「ちょっと君、何処に行くの?そっちは職員用のトイレよ」背後から声をかけられる。振り返ると、大人の女性がそこにいた。どうやらこの学校は、生徒と教員の施設が分かれているようであった。前に来たときに使ったのが職員用であったようである。
「すいません。今日転校してきたばかりで解らなくて……」拓海は頭を軽く掻いた。
「えっ、一条君?」名前を呼ばれて女性を見る。そこには、なんだか見覚えのある顔があった。
(まさか……、恵子!?)声を出しそうになるのを堪える。
「あっ、そんな訳……ないわね。ごめんなさい。知り合いに似てたから……、もう休み時間が終わるから教室に戻りなさい」恵子は、少し動揺した様子であった。
「ええ、すいませんでした」拓海は軽く会釈してから背中を向けた。
拓海と彼女は午後からの授業で再会する事になるのであった。
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