第四話

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第四話

五時限目、英語の授業。 担当教師は、先ほど廊下で注意された女教師であった。 教室の中は騒がしく、生徒達の会話が止まらない。所謂、学級崩壊というやつのようである。 午前の授業中も多少のお喋りはあったようだが、ここまでは酷くなかった。 それでも、気にしないように女教師は、出欠の確認を取る。 「麻生恭子さん」 「……はい」 「有村淳一君」 「はい」 「泉里美さん」 「はーい」 「一条……、拓海君?」なぜか、イントネーションがおかしい。 「はい」拓海が返事をしてから、少しの間が空く。女教師は、驚いたように拓海を見つめる。 「先生~、次、俺、俺の名前」拓海の次に呼ばれる生徒が自己主張する。 「あっ、ごめんなさい。えーと次は、大塚敬二君」 「へーい!」おどけて見せたがあまり受けてはいない。「さあ、お祭り時間の始まりだー!」大塚という生徒が騒ぎ出す。 「おお、はじまった」周りにいる一部の生徒達が囃し立てる。 「そこ、静かにしなさい!」教師が注意するが無視して騒ぎつづける生徒。 「いい加減にしなさいよ!」机を叩いて恭子が立ち上がり大きな声で制止する。しかし、それも全く無視して暴れだす者もいる。 「ちょっと……、あなた達!」女教師は目に涙を溜めて、今にも泣き出しそうな勢いだった。 「ガキどもが、うるせいな……!」拓海は頬杖を着きながら呟いた。 「おい!転校生!!今、何か言ったか!?」拓海の呟きが耳に入ったようで、騒いでいた一人が掴みかかってくる。 「いや、俺は別に……」拓海は誤魔化すように斜め上に視線を泳がせた。 「なんかお前調子に乗っててムカついてたんだ!」殴りかかってこようとする。実は拓海は格闘技の有段者で、高校生など簡単にあしらうことが出来るのだが、ここはわざと殴られるのが正解かなと思った。 「やれやれ!やっちまえ!!」騒いでいた仲間達が、勢いづいていく。 「ちょっと、止めなさいよ!」二人のやり取りを見ていた恭子のが止めに入る。 「どけ!!」テンションが上がって、男子生徒は恭子を突き飛ばした。その、瞬間反射的に、拓海は自分の胸ぐらを掴んでいた相手の手首を掴むと、反対の腕刀で関節を決めて床に叩き落とした。 「い、痛い!!」先ほどまで威勢が良かった男子生徒が悲痛な声をあげる。 「何、やってんだよ!」その友人らしき生徒が押さえ込みを掛けている拓海の顔面に蹴りを放つ。拓海は、関節技を解除すると、蹴り足を吸収するように受けると足首に腕を絡めて、もう一人の身体を捻り落とした。「ぐえー!」顔面が苦痛に歪む。 「もういい加減に止めなさい!」注意をしたのは女教師であった。 「あれ?もしかして俺……、怒られてる?」拓海の頭の中を?マークが増殖していく。 「暴力は駄目よ。ろくな大人にならないぞ」拓海は軽く頭を拳骨でこつかれた。 「は、はあ……」拓海は生徒から手を放して立ち上がった。周りの生徒達も、先ほどの騒動のせいで静まり返っている。 「二人とも怪我はない?」女教師は倒れている二人に声をかけた。 「は、はい……」二人は泣き出しそうな顔をしながら自分の席に座った。拓海も自分の席に座る。さすがに、皆の前でこれ以上格好の悪い姿を見せたくなかったのであろう、その後は生徒達は静かに授業を受けた。授業を受けている間に、教師の名前も麻生である事が解った。恭子と何かしら関係があるのであろう。 「ちょっと、一条くん」麻生が授業終了後に声をかける。拓海は、麻生の後を追って廊下に出た。 「えっと、なにか?」 「ありがとう。君のお陰でキチンと授業が出来たわ。あと……、君は、お兄さんとか要るの?」麻生は少し遠慮勝ちに質問する。 「えっ、いや、あの、居ないですが……、なにか?」拓海は少し仰天していた。やはり、この女教師、麻生恵子。拓海は彼女の事を知っている。高校生の頃に一方的に好きだった同級生、結局告白する事はなかったが、彼にとっては忘れられない人の一人であった。 「いえ、実は君の名前と顔……、私の知っている人とそっくりなの……」まるで、秘めてた思いを口にするような勢いであった。 「そりゃ……、た、他人のそら似でしょう。世の中には三人似てる人がいるっていいますし……」また、斜め上を見ながら視線を泳がせた。嘘をついたり、誤魔化したりする時の彼の癖であった。 「そうね……、ごめんね。それから、本当にありがとう」恵子は軽くウインクをすると、背を向けて拓海の前から去っていった。 「こりゃ……、地獄だな」拓海は深いため息を一つ産み落とした。
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