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第五話
「お前、何しに学校に行ってるんだ……」黒崎刑事が煙草を咥えながら呆れた気持ちを煙に乗せて吐き出した。彼の目の前には、少し汚れたブレザーの制服を着た拓海の姿があった。
「いや、あの、殺人事件の……、犯人探しです……」ばつが悪そうに頭を軽く掻いた。
「いい歳して、子供と取っ組み合いのケンカしてる場合じゃないだろう。なんか情報はつかめたのか?」
「いいえ、今日は収穫ありませんでした」拓海は視線を上に向けた。
今回の捜査に関しては、黒崎と拓海、そして新人の刑事の小松の三人で担当する事になった。学校の近くにある、ワンルームマンションの一室が拠点となっていた。交代で学校の様子や動きを確認するのだが、拓海は、ここで生活しているような状態になっていた。
「全くちゃんとやってくれよ」黒崎は冷蔵庫の中から缶ビールを取り出すと蓋を開けてグビグビと飲みだした。
「あっ、俺も……」拓海が冷蔵庫を開けようとすると黒崎は片足で扉を押さえて阻止したり
「お前、未成年が飲酒したら駄目だろう?」美味しそうに、また一口。
「いや俺、28ですし、もう学校終わり……」
「駄目だ!明日、酒臭い匂いさせて行けないだろう。それにいつ何があるか解らんのだから、高校生らしい清く正しい生活を心掛けるんだ!いいな」黒崎はニヤリと笑う。
「えー、そんな!」拓海は肩を落とした。その二人のやり取りを見ていた小松が吹き出す。「なに、笑ってんだよ」拓海はやり場のない憤りを新人にぶつける。
「いいえ、別に」小松は口をキリッとして、真面目な顔をした。
「小松、後はコイツに任せて、お前も飲め」黒崎は冷蔵庫の中から、キンキンに冷えてるであろうビールを、小松にも一本手渡した。
「いただきます」小松は躊躇せずに、それを受け取った。
「くうー!」拓海は出した事の無いような声で不満を訴えた。
「まあ、早く事件を解決して美味しい酒を飲もうや」黒崎は、言いながら美味しそうにビールを飲み続ける。
「ここも、地獄だな……」こうして拓海の禁欲生活が始まったのであった。
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