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第七話
音楽の授業が始まる。
亡くなった梅原の後の後任は、若い新人の女性教師であった。
先日の件もあるのか、授業は比較的静かに進む。途中、教師も嬉しそうに今日はみんな静かねって声掛けする場面もあった。きっと、この授業も英語と同じように、学級崩壊していたのであろう。なんだか、先生は嬉しくて泣き出しそうな感じであった。
拓海は、梅村が亡くなっていたドアの辺りに視線を向けた。どうやら、あの事件をきっかけにドアノブが交換されて紐などをかける事の出来ないタイプの物に交換したようであった。この辺は体裁を繕ったというのが本音で、やろうと思えばどんな形状の物に変えても同じであることは明らかであった。
「一条君」教師が拓海の名前を呼ぶ。
「はい!?」唐突に名前を呼ばれて飛び上がる。明らかに不意討ちであった。
「君、転校生だよね。この曲解る?」教師は黒板に書いた文字を指揮棒で差した。
「あ、あれ?」拓海は黒板より、教師の顔を凝視する。
「なにがあれ?ですか。解るかどうかを聞いているんです」教師は少し悪戯っぽい表情でもう一度質問する。
「あ、ああ、知ってる……けと、お前……」黒板に書かれた曲名はドレミの歌であった。高校生が改めて学習する物なのかと改めて目を疑った。
「まあ、先生に向かってお前って……、なんですか」彼女は少し目を潤ませる。それによって教室内も少しざわめく。
「いや、あの、その、すいません……」拓海は少し悔しそうに頭を垂れる。
「じゃあ、先生が演奏をしますから歌ってください」明らかに先程のは嘘泣きのようであった。彼女はピアノの前に座ると優雅にドレミの歌を引き出した。
「ド……、はドーナツのド♪レはレモンのレモ~♪」
「もっと大きく!」
「ミはミカン、違った!みんなのミ~、ファは…………のファ~♪」教室内が爆笑する。
「ソーは、ソラマメよ~♪シーは、シラサギね~♪あっ、ラ抜けた……!!」ここで伴奏は終わり生徒達は笑つづける。
「はーい、新しいバージョンですね。次はちゃんと覚えて来てくださいね」小馬鹿にした笑いが鼻につく。
「ここも地獄か……」拓海は軽く舌打ちをしながら席に着席した。
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