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第八話
「ちょっと、俺は聞いていませんよ!?」拓海は学校から帰るなり黒崎に食って掛かった。
「ん?なんのことかな」黒崎は惚けたような顔を見せる。
「あいつも潜入捜査してるなんて、初めから教えといてくださいよ!」教科書の入った鞄を床に放り投げる。
「ああ、言ってなかったっけ?自殺した教師の後を受け持つのを他の教師が嫌がるって聞いてな。教師側と生徒側の二重潜入ってわけだ」黒崎は得意気に笑う。
「聞いてませんよ。まったく……」拓海は冷蔵庫を開けるとビール缶を手に取る。
「だから駄目だって言ったろ!お前は今、高校生なんだぞ、こっちを飲んでおけ!」黒崎は、拓海の手からビールを取り上げると、牛乳パックを渡した。
「ちっ!」牛乳パックの口を開くと、拓海は一気のみした。
「お前、今、舌打ちしなかったか!それから、コップを使えコップを!」黒崎はまるで父親のようてあった。
「ちっ!」牛乳を一気のみしたようで、容器はすでに空であった。
「舌打ちするな!そうだ、なにか収穫はあったのか?」黒崎の顔が刑事に戻る。
「ええ、梅村は生徒達には、慕われていたようですよ。あまり、悪い噂はありませんでした」黒崎の変化に対応するように、拓海は表情を変えた。
「そうか……、梅村という、教師は生徒側と同僚からの評価が違ったようだな」黒崎は煙草に火を灯して口に咥える。
「と、言いますと?」拓海も一本貰おうと手を出すが、黒崎はその手を叩いて拒否する。
「どうやら、女教師達の間では良い評判は無かったようだ……、厄っかみってヤツかもしれんな」煙を吐き出す。
「厄っかみ……、ですか?」
「俺達が、思うよりも女同士は大変なようだ」
「まさか、それで梅村を殺害……!?」
「まあ、その線もあるかもしれんが、まだ解らんよ。だいたい、犯人も全く解らんのだから」犯人が解らないのに、動機も何も解らないのは当然である。
「同僚に嫌われてたんですか……」拓海の頭には、麻生恵子の顔がちらついた。
「それと、腹の子供の親が誰なのかも解らんしな……」彼女の腹には、妊娠4カ月の子供がいた。彼女が身籠っていたことは、誰も知らないそうであった。
「そうですね。その相手が何か知っている筈だと俺も思います」拓海は、親指の爪を噛んだ。
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