5人が本棚に入れています
本棚に追加
第九話
「ねぇ、次の日曜日って暇?」唐突に恭子が声をかけてきた。
「えっ、俺に言ってるのか?」拓海は目を見開いて彼女の顔を見る。
「あんた以外誰がいるのよ。暇なの?」確かに彼女の目の前には拓海しかいなかった。
「ああ、特に用事はないけど……」一応、日曜日は休みという事になっているのだが、前の日曜日は結局あの部屋で一週間の報告書を作成するという週末を過ごした。
「じゃあさ……、一緒に映画いかない?」恭子は少しお恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「映画?俺と……お前が!?」拓海は驚いて、彼女と自分の顔を順番に指差した。
「何度、同じこと言わせるのよ」少し唇を尖らせる。
拓海は黒崎から出来るだけ生徒達と交流する事を念押しされた事を思いだした。
「そうだな……、で何の映画?」正直、ラブロマンスとかは勘弁願いたいところであった。
「えーとね、アニメ……、もしかして嫌い転……かな?」彼女の表情が少しだけ曇った。
「いや、嫌いじゃないけど……」積極的に見る方でもない。
「お前ら何の話してんの?」有村が声をかけてくる。毎度、拓海と恭子が話をしていると気になるようである。
「ああ、今度の日曜……ふがふぐ……」拓海がそこまで言った所で、恭子が彼の口を両手で押さえた。
「ん、何?」二人の様子を有村は怪訝そうに見る。
「なっ何でもないの!いいから、いいから!!」恭子は慌てて有村の背中を押すと向こうに行くように即す。
「何だよ……」有村は少し拓海を睨み付けるようにして自分の席に移動した。
「どうせなら一緒にいけば良いじゃないか」拓海は彼の視線から目を反らして頭を軽く掻いた。
「だ、だって、映画の券は二枚しかないのよ……」
「じゃあ、アイツと一緒に行けばいいじゃないか」机に頬杖をつくと呆れた顔を見せる。
「何なの、私と一緒は嫌だっていうの!?」急に凄んで拓海の胸ぐらを掴み上げた。
「いいえ……」拓海は小さな声で返答する。
「じゃあ、約束よ」そう告げると笑顔で軽く手を振りながら自分の席に移動した。
「地獄だ……」
最初のコメントを投稿しよう!