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ニ週間後、ダンススタジオの廊下で、レッスンの休憩中にアキはハルに呼び止められていた。
「じゃ、クリスマス・イブにその店で待ち合わせな。予約しとくから」
ハルがいつものように眩しい笑顔でそう言うと、アキの返事も聞かず、背中を向けて歩き出した。
「評判の良いお洒落な店、教えて貰ったからって、何で俺を誘うんだよ。
しかもいつも勝手に決めてるし」
アキは口の中で、ハルの背中に向かって呟いた。
『藤崎陽人』といえば、誰もが 『爽やかな好青年 』と答える。
そんな眩しい笑顔で誘われたら、女子じゃなくても断り切れないだろ……。
もっともクリスマスに女の子と二人きりなんて、今の俺達には無理な話。
それなら、最も気の合う親友と一緒の方が……
そんな想いはきっと同じなんだと思う。
親友か……
そうだよな……。
アキは、廊下の小さな窓から、何となく外を眺める。
街路樹の枝はすっかり葉を落とし、初冬の低い空は、どことなくもの悲しい。
意味もなく窓ガラスを爪の先でカツッと軽く叩くと、額にかかる長めの前髪を乱暴に掻き上げ、レッスン室へと戻った。
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