Phantom《ファントム》

１．二人の陽人

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
背後から走る足音が聞こえる。
遠くに聞こえていたその足音が、どんどん自分との距離を詰めて来たように感じ、藤崎(ふじさき)陽人(はると)は怯えた表情で振り返ると、走るスピードを上げた。

上げた……つもりだったが、焦る気持ちに足がついて来ない。
おまけに薄手のベージュのコートの裾が、脚にまとわり付くように邪魔をする。

「くそっ！」

苛立つ気持ちを宙に吐き捨てながら、前へ前へと大きな一歩を踏み出す。

その少し後ろを日浦陽人(ひうらあきと)が追い掛けて走る。
黒いロングコートの裾と、襟足まで伸びた髪をなびかせ、無表情で目を見開いたまま、その様は藤崎陽人とは全く対称的に見える。

息苦しさなどは全く感じさせず、まるでサイボーグのように、スピードをどんどん上げながら走る。
その冷静そうに見える彼の目の奥は、獲物を捕らえる鋭い眼力を携えている。

走る二人の距離がどんどん縮まっていく。

黒革の手袋をはめた右手が後ろから伸びて来て、前を走るその肩を掴める距離まで来た……。