1.二人の陽人

3/10
58人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
「はい、カットーー!!」 その声に、二人は走る足を止め、息を弾ませながら顔を見合わせた。 「アキ、足、速過ぎだろ~」 ハルは額の汗をコートの袖口で拭うと、両膝に手を着き、背中を丸めて荒い呼吸をしながら訴える。 「え? そうか~? でも、ま、俺はドラマや映画でしょっちゅう走らされてるからな。慣れだよ、慣れ」 アキは、全く余裕な様子で、ハルに向かって淡々と答える。 「何だよ、その余裕。ムカつくな〜。 でも、そういや、アキの出てる作品(やつ)、いつもどっかで必死に走ってるもんな」 「うん、何でだろな…。何故かそんな役ばっかり回って来る」 「しかもクールに走れるしな。汗も殆どかいてないだろ。 俺なんか見てみろよ。この乱れっぷり。何もかもヨレヨレだよ〜。 あ〜、(あち)ぃ〜!」 ハルはコートを脱ぎ捨て、首に巻いたストールを勢いよく引き剥がすと、Tシャツの襟首を掴み、身体に空気を送り込むようにバサバサと揺らす。 「 『 非情なイメージで 』、と監督から言われたから、そうしただけだよ」 アキは黒のコートに手袋をはめたままの姿で、そう答える。 「これだよ、これ! 俳優気質ってやつ?」 「そんな突っかかるなよ」 「誉めてんだよ! 何? お前、鈍感?」
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!