1.二人の陽人

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「いや、肩と手元のアップだけ撮れれば、それでいいんじゃないかな」 「でも、それだと疾走感が出ませんよね? 二人の周りを流れる風もそうだし、何より必死に逃げてるハルの肩の揺れ方とか、それを捕まえようと必死に伸ばす僕の手は、静止画やちょっと動いたくらいの差し替えじゃ、その熱量を表現できない気がするんですが……」 「なるほど。そうだね。アキくんの言う通りだ。じゃ少しでいいから走って貰っていいかな? え〜と、どのくらい……15mくらいで……」 「100m全力疾走して、最後の方を撮って貰えれば」   監督に被せるように言ったアキの言葉に、スタッフもだか、動向を(うかが)っていたハルが一番目を剥いていた。 …こいつは何を言い出してんだ? さっき仕上がったやつだって、それまでにテスト含め、何本も走ってんのに……。 もうそんな気力残ってないぞ。勘弁してくれ…… しかし、そう思ってすぐに打ち消した。 アキはいつでもそうだ。 些細なシーンにも全力を注ぐ。 見る側が気付くか気付かないかレベルのことにも、最大限の拘りで、心を込めるのだ。 受け取る側に、何らかのメッセージが届くことを願って。 ハルは一瞬緩めた頬を真顔に戻し、大きくフッと息を吐き、アキの背中を軽く叩いて、スタンバイ位置へと向かった。
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