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いや、よくよく考えれば修は巽とも長い付き合いだと言っていた。多く人が溢れ、出入りしているようでも、狭い限られたコミュニティなのだ。人伝てになにか聞き及んでいるのかも知れないと、すぐに思い当たった。
「……なんでそこで憬が出てくるんだよ。まあ確かにあの人と終わってから特定の相手は作ってないけど、それだけが原因じゃない」
「そうか。憬との別れは辛い記憶として残っているんじゃないのかい」
「さあ。俺も若かったし、遊びたい時期だったからな。あの人一人に振り回されるのに疲れたのかもな。よく覚えてない、その程度のことだ」
「意外だね、憬に振り回されてたなんて」
「揚げ足取るなよ」
「……龍弥は憬が嫌いかい?」
酷く哀しげな顔を向けると、修は龍弥の手を取ってその甲に唇を当てる。
どうして修がそんな悲痛な顔をするんだろう。理由はいまいち分からないが、憬の名前が出たんだ。何かしらの事情を知っているんだろう。
「どうだろうな、正直分からない。もうあの時の気持ちなんか薄れたし、今更あの人のことを考えてる暇もないんでね」
龍弥は一気に言葉を吐き出すと、修に掴まれた腕を解いてソファーから立ち上がる。
「別に家に居るのは構わない。俺はこれから買い物に行って来る。眠けりゃ寝てれば良いし、帰りたきゃ帰って構わない。好きにしろ」
修を一瞥して言い置くと、すぐにベッドルームに移動して適当な服に着替え、キッチンのカウンターに置き去りにされたキーケースを手に取って合鍵を外す。
「帰るなら戸締り頼むな。これはポストに入れといてくれれば良いから」
誰に渡すでもない、入居時からキーケースにぶら下がったままだったスペアキーを初めて誰かの手に託す。その相手がたまたま修だっただけのこと。
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