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せっかく振り切ったのにすぐに解散しては意味がない。仕方がないので、男の姿が見えなくなるまで演技を続けることにする。
「コンタクト落とすとか普通にねえだろ。どっかでサカって一発やってきたんじゃないのか」
勘弁しろよと悪ノリで龍弥は初めて相手の顔をしっかりと見る。
「そういうのを許してくれるから好きだよ」
プラチナブロンドの髪は染めているのかと思ったがそうではないらしい。淡いブラウンのレンズは目元を隠すためだったのか、サングラスを額の方にズラすと、アクアブルーの瞳が艶やかな笑顔で龍弥の後頭部を梳くように撫でる。
彼の顔立ちはどう見ても、純正の日本人と云う訳ではなさそうだ。
(流暢な日本語喋りやがる……)
しっかりと真正面から目線を捉える彼の顔は涼しく儚げで美しい。見覚えがある気がするのは海外で人気の俳優に似ているからだろう。身長は180センチ以上ある龍弥と同じくらいだろうか。
「……おい。もういいだろ」
ふわりと香る甘い独特の香りに、これ以上見つめていては毒気にあてられる。そんな気すらして、戯れ合うように頬を撫でる彼の手を解くと、まだ後ろ姿が見える先程のナンパ男を警戒しつつ、龍弥は指に力を込めて目の前の男性の手を握りしめる。
「いてて」
「痛くしてんだから当たり前だ」
腰を抱き寄せて顔を近づけると、そのまま頬を合わせて耳元に冷たくそう言い放つ。
「ごめんね。助かりました」
そんな龍弥に柔らかい物腰でお礼を言うと、ついでなのかわざとリップ音を立ててキスをして、悪戯っぽく笑う顔に悪びれる様子はない。
「あのなあ……」
「恋人でしょ?ならキスくらいはしないとね」
ごちそうさまと再び笑顔を作る。その態度に龍弥は何度目かの呆れた溜め息を吐いて、もう用事は済んだと踵を返す。
「じゃあな」
ヒラヒラとあしらうように手を振り背を向けると、背後からきっとまた縁があるよと意味深に呟く声が聞こえた。
(なんだったんだアイツ……)
龍弥は身に起こった奇妙な体験に眉を寄せ、出来ればもう二度と関わることがなければ良いと、キスされた唇を手の甲で拭った。
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