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 三杯目のグラスが空になりかけた頃、テツがそう言えばと、悪戯を思いついたような顔で龍弥の顔を覗き込んだ。 「春頃くらいからだったかな。俺もちょいちょい噂だけは聞いてたんだけどさ、脚への拘りがやたら強い奴が居るらしいんだよね」 「あ?脚フェチ程度、何処にでも居るだろ」  一切興味がない様子の龍弥は、鍵盤を弾くようにカウンターを指でタップしながら、亮太に同じものと呟いて四杯目になるドリンクを頼む。 「いやそれがさ、自分から誘うクセにドタキャンが酷いらしくて。もしかしたら人探ししてるんじゃないかって噂になってるんだよね」 「人探し?」  龍弥は怪訝な顔をすると、亮太から差し出された四杯目のドリンクを受け取ってテツに続きを促す。 「亮ちゃんは聞いたことない?どうやらその人、脚を確認したら何もせずにその場から居なくなるらしいんだよね」  テツの声に、ああ。と呟くと、何かを思い出した様子で亮太はグラスを磨く手を止めた。 「それなら俺も聞いたことあるよ。脚フェチの美人さんでしょ」 「そうそれ。さすが亮ちゃん」  ウキウキと声音を跳ねさせるテツに、それがどうしたんだと冷めた視線を向けると、龍弥はグラスを傾けて喉を鳴らす。 「肌の合う合わないくらい、別に珍しいことでもなんでもないだろ」  一晩限りの相手を、結局何もせずに放置した経験がある龍弥にしてみれば、噂になるほど大袈裟なことなのかと肩を竦めるしかない話だ。  龍弥だけではないだろうが、いくら身体目当てであっても、実際に行為に及んでから違和感を感じてストップすることは多々ある。  もちろん勢いで乗り切るケースもあるだろうが、なんのために一晩限りで遊ぶのか、旨味のないやり取りには意味が見出せない。 「まあ龍弥ならそう言うだろうね」  亮太は苦笑するとテツに新しいドリンクを二つ差し出して、奥の彼が話したそうにしてるよと囁いて送り出す。 「亮ちゃんのそう云うところが好き。じゃあね、龍弥。また飲もうね」 「ほどほどにしとけよ」  亮太に一途だと言ったのはなんだったのか。その場を離れるテツに苦笑すると、龍弥はグラスの残りを飲み干した。 「あれ、その様子だと龍弥はもう帰るのかな」 「悪いけどまたゆっくり来るわ。休み自体が久々だから、巽の店にも顔出してくる」 「そっか。巽くんの店なら朝までコースじゃない?ナンパの彼、連れてくれば良かったのに」 「はあ?」  なんのことを言われてるのか分からずに龍弥が眉を顰めると、もう忘れたのかと亮太が呆れている。 「店に来た時、随分ご機嫌斜めだったじゃない。記憶から消したいくらい酷い子だったの?」 「……おい頼むよ。せっかく消えてたのに、誰かさんのせいで台無しだ」  プラチナブロンドに甘い唇。鼻腔をくすぐるまったりとした甘い香りを思い出してげんなりする龍弥だった。
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