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花言葉があるように石言葉があるらしい。
「……ふぁああ」
龍弥はへたれたあくびをしながら、寝惚け眼を擦ってベッドから立ち上がる。
右手首に着けたラダーブレスレットにあしらわれたパイライトが鈍く輝く。
別に拘っているつもりはないが、無骨な見た目が気に入って着けている。一晩寝た相手に石に詳しい男がいた。
———恋の戯れ
パイライトの石言葉を知った時、自分らしすぎて笑いさえ出なかった。その時の相手の顔は当然ながら、いつ聞いた話だったかも覚えてはいない。
10月にも拘らず冬さながらの冷え込みに、暖房を効かせ過ぎたからか起き抜けの喉が少し痛む。
うがいをして顔を洗うと、冷蔵庫から野菜や果物を取り出して手際良く水で洗い、一口大にカットした物をミキサーに放り込んでジュースにする。コレは毎日のルーティーンのようなものだ。
「なんだよ。まだこんな時間か」
時計を見ると19時過ぎ。夜の帳が下り、開け放ったカーテンの先に灯る夜景を見て、リビングのソファーに座る。そのまま電気も点けずに眼鏡をかけてテレビのスイッチを入れた。
にがやかを通り越して、耳障りなバラエティ番組にうんざりした顔でチャンネルを切り替える。
「急に休めって言われてもなぁ」
出来たばかりのジュースを一気に胃に流し込むと、今度はスマホを手に取りザッとニュースに目を通す。
「しょーもねえニュースばっかりだな」
ゴシップ記事が賑わう画面から目を離し、スマホをテーブルに置いてタバコに火を点ける。
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