キィ、キィ、キィ

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 なぜ、病院から? 綾香に何が…… 電話の声が遠のいていく。  だが、こんなことしている余裕はない、と脳裏で誰かが告げ、俺は慌てて身ひとつで家を出た。  荒い息をつきながら院内に飛び込び、受付に駆けつけた。 『絢香は……、あの、駒田です、さっき電話……』  飛び込んできた俺に目を見開いていた受付の女性の顔に、一瞬で翳りが差す。 『……地下一階に行ってください』  とっさに案内図をみる。地下一階にあるものは──霊安室だった。  嘘だろ……希望が断たれる音がした。  ドキドキ……鼓動がうるさいほど響いた。掌はぐっしょりと湿っている。  気付いたら俺は綾香の前にいた。無機質なベットに彼女は横になっていた。綺麗でただ眠っているように見え、もう死んでいるとは思えない。“おはよう”と不機嫌そうに起き上がってきそうなのに。  ──なぜ、なぜ、なぜ……なんで、娘はここにいるんだ。さっきまで動いていたのに。悪夢でも見ているのだろうか。  再び記憶が飛ぶ。別の部屋で医師と話していた。  ──腹腔内出血、多臓器不全、出血性ショック。  それらが綾香の命を奪った。  怒りに任せ、ブランコを漕いだ綾香。不意に手は離れ、地面に叩きつけられ意識を失った。そんな娘の身体の中で大量出血が起こっていた。さらに臓器の働きが著しく低下して、多臓器不全に陥って助からなかった。  医師はそう説明し、複数の書類を出したが、愕然としていて、すぐには受け取れなかった。  最期の会話が、表情が、雰囲気が……苦しい。なぜ、喧嘩で終わってしまったのだろう。  綾香、ごめん。謝っても、償えない。あの時に戻って、やり直したい。  キィ、キィ、キィ…… *  目を開ける。キィ、キィ、キィと無人のブランコが揺れている。少女はもういなかった。  夕日がブランコを照らす。綾香の体内ではこんな美しい赤ではなく、毒々しい色をした赤色に満たされてしまったのだろうか。  一人、俺はブランコに腰掛ける。  キィ、キィ、キィ……  俺は地面を力強く蹴った。
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