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キィ、キィと軋んだ音が公園に響いている。一人の少女が笑顔で夕日の中、ブランコを大きく漕いでいた。前へ、後ろへ。揺れるたびに音が軋む。
俺は大きく息を吐く。一人ベンチで腰掛け、憂鬱な顔をしている中年男性のそばには誰も近づかない。
キィ、キィ、キィ………
俺は耐えられず、耳を閉じた。悪夢が自然と脳裏に蘇る。
*
娘の綾香はブランコが原因で死んだ。享年、十四歳。
三年経った今もずっと、ずっと、後悔している。
あの日の夕方、進路のことで綾香と揉めた。高校は専門学校に行く、と言った綾香。俺は将来を案じ、一般高校を提案した。父子家庭で、俺に万が一のことがあった時のことを想定しての提案だった。
しかし、相手は反抗期。直ぐに大喧嘩に発展し『もういい!』と言い捨て綾香は家を飛び出して行った。イライラとした俺は、引き留めず『勝手にしろ!』と背中を向けた。
──それが最期の会話だった。最期に動いている綾香だった。
キィ、キィ、キィ……
綾香は幼い頃から負の感情に陥ると、ブランコを漕ぐ癖があった。
その日も怒りに任せて漕いでいたのだろう。
日が暮れても、月が出ても、なかなか帰宅せず、徐々に不安になってきた俺に一本の電話がかかってきた。
『駒田綾香さんのお宅でしょうか? 先ほど娘さんが〇〇病院に搬送されました。至急……』
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