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第一話 二週間前
よく晴れた平日、一限目終わりのチャイムで俺は重い目を開いた。教室にいるクラスメイトたちは授業の緊張が終わり、こんなとこに留まってはいけないと教室を出て行く。この教室は遊びに出る人が多いのかどの休み時間も人口密度が低い。俺が顔をあげて伸びをする頃にはもう人は少なく、一つの女子のグループと数人の男子生徒がいるだけだった。
瞼は重いけど次の授業の用意をしようと机の中をごそごそとさぐっていると、一人の女子が近づいてきた。
「紀くん。今日、透子ちゃんがなんで休んでるか知らない?」
髪を高くお団子にした女子がそう言った。確か橋本さんだ。溌剌とした声で話すこの少女は体育委員でいつも元気で明るい。
「知らないな」
「そっか、同じ中学って聞いてたからもしかしたらと思ったんだけど」
「ごめん」
「こっちこそ、ごめんね」
橋本さんが去ってから後ろを振り返る。斜め後ろにある席にかばんはない。休むことなく、さらに登校も早いその席の主は今日はまだ現れていなかった。
今日は休みの新田透子という少女と俺はこの高等学校の中では数少ない地元民で、中学どころか小学校も一緒の幼なじみだ。小学生の時は仲が良かったのだが、ここ数年は疎遠になっていた。偶然同じ高校に入ったけれど、昨年、一昨年と違うクラスで姿を見ることもほとんどない状態だった。今年は同じクラスで、毎日のように姿を見るけど、まだ一言も話していない。だからまさか、透子が自分のことを同じ中学だと友達に話しているとは思わなかった。体にじわじわと熱が広がる。すごくうれしい。
透子は真面目で大人しく模範的生徒だ。サボりは考えられないから体調を崩してしまったのかもしれない。
なんだか舞い上がってしまって、いてもたってもいられなくなった。透子と話さなくなったのはもう四年も前のことだ、これだけ時間がたてば逆に自然に話せるんじゃないだろうか。ずっと休まなかった幼馴染が風邪なんて心配だから、というきっかけも悪くない気がする。
同じ中学だって話しているということは透子も俺のことを嫌っているということもないはずだ。
お見舞いにいこう。昔はよく聞いた透子の鈴のような声が頭の中で響いた。
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