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使いこまれた勉強机を撫でた。ようやく拭き終えたそこはほこり一つない。自分の言われていた作業は終わって、流れてくる汗を腕で乱暴にぬぐう。もうすぐ雨が降るのだろうか。湿気が高くて肌をじっとりした膜が張っているみたいで、不快だった。
部屋は見違えるほどきれいに片付いた。あるのは勉強机とベットのみで、透子はクローゼットの中を拭いていた。俺の視線に気づかず熱心に雑巾でこすっている。三年で同じクラスになってから透子の横顔を見ることはよくあった。中のいい友達と話している姿もよく見た。それになにか昔と変わりがあるとはおもわなかったけど。
やっぱり、いくら考えても二週間後の予言をなぜ透子が信じているのかわからなかった。別に当たって何かあったとしても、生き残るかもしれないじゃないか。というか、普通、人間って災害がおこっても自分だけは生きてるなんて、謎の自信を持ってるものだ。なぜ死ぬと考えて、前向きになっているのか。なぜばかりが頭を乱す。
自分が死んだ後、見られる部屋を綺麗にしたい、ということは見る人を意識している。透子は自分は死ぬと考えている。だけどなぜか他の人は生きているかの言い振りだった。透子は予言を信じきっているにもかかわらず、それを俺にまったく強要しない。どう考えても、透子の思い込みは不可解だ。
そもそも世界が滅亡ってどういうことだ。宇宙人の侵略だとか、巨大隕石だとかなら、確かに地球は終わるかもしれないけども、人間の滅亡に絞ったなら経済破綻だとかも考えられるんじゃないか。そしたら早急に死がせまるわけでもないだろう。世界滅亡なんて大雑把にもほどがあるし、うさんくさい。わからないことだらけの予言にそなえるってどういうことなのか。
透子もクローゼットの中を拭き終わったのか、雑巾をバケツに入れて腕で汗をぬぐった。俺を見てにっこりと笑う。
「ありがと。掃除、間に合わないかもって、実はあせってたの。明日、学校行けそう」
「なんで今日、掃除しようと思ったんだ?」
「予言を昨日、知ったの。それで、準備しなきゃ! って眠って起きたら頭のどこかがショートしたみたい」
透子は困ったように微笑んだ。生ぬるい風が吹く。外の雲は厚くてすべてが鈍い色をしていた。雨を出したほうが楽なのに我慢しているからこんなにも暗くなってしまうんだ。
「親は今日、学校休んだことは知ってるのか?」
「知ってるよ。仮病使っちゃった。初めてのずる休み。だから、大掃除のことは内緒だよ」
内緒と人差し指が唇に当てられた。それに伺うような上目遣いがプラスされる。
「言わない。だけど、俺にはちゃんと言って。これからどうするの」
二週間後までに、なぜ透子がこんな行動にでてしまったのか知りたい。そして、予言を信じさせないようにしたい。悪いことに備えるのはいいことだけど、信じて悪い方向に前向きになるなら信じないほうがいい。
「まだ、ちゃんと考えてないんだけど、郷愁にひたろうかな。……あぁ、でもやり残したことがある」
「そこに、俺がいたら邪魔? 手伝うことない?」
透子は一瞬困った顔をしたけど俺をみる。
「なら、手伝ってもらうよ。遣り残したことがたくさんあるの」
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