リンカーネ王国のモブは転生者しかいない

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 あまりにも呆気なく終わった私の前世。  確かに転生される時に神だか何だかに会って「貴女は善行を行ったので特別な力を授けて新たな人生を歩ませてあげましょう」とかそんなこと一切なかった。そりゃあだって私、転生できるなんて知らないから極々平凡に、パワハラセクハラ上司に耐えながら代り映えの無い同じ毎日を送っていましたけども。転生できるならできるって教えてくれてもよかったんじゃないかなー。  それに、人生幸せかと言われたら首を捻るけど、それでも頑張って生きていた人間なんだから、ご褒美として少しはネームドキャラに転生してくれてもよかったんじゃないかな神様ー!  ……え?好きな作品の世界に転生してやっただけでもありがたく思えって?うるせー!人間は欲深いからネームドキャラか最強キャラじゃないと満足しないんだよ!  メイドとして生きていた第2の人生の記憶がばっちりある中、突然流れ込んできた前世の記憶に思考が完全にパニックに陥り、まるで頭痛に悩まされているかのように頭を抱えていると、どこからともなくすすり泣くような嗚咽が聞こえてくる。  おっとここで媚びを売っておけば、ネームドキャラの誰かと繋がれるチャンスがあるのでは?と丸出しの欲を一切隠すつもりがない私は、早速音の元へと駆けつけていった。  しかし神は欲深き人間には厳しいようで、期待と希望とその他なんかキラキラしたものを胸に駆けつけた先にいたのは、大きな丸眼鏡で目元が隠れた三つ編みそばかすメイドだった。もちろん見覚えはない。  はーい、私と同じ背景同然モブメイドですありがとうございました撤収ー!  見事に打ち砕かれた期待と希望とその他なんかキラキラしたものに、その場から踵を返そうとした。 「そんな……嘘……無理……ここリンカーネ王国……」  すすり泣きの中から聞こえてきた単語に、私は返そうとした踵をその場で一旦止まらせた。  どこからどう聞いても同類の発言だ。私の前世の友人で、推しを見れば常にああなる人がいた。人生楽しそうだったなあの子……。  二つの意味で同類であることがほぼ確定した三つ編みの彼女。しかしここで「貴女もディアドリファン?!」と駆けつけて違ったら、私のメンタルが死ぬし完全に怪しい人。こう見えて私、陰キャに属しているのでその未来は避けたい。しばらく彼女を観察することにした。  仕事をサボっているのがバレたら流石にマズいので、物陰に隠れながら咽び泣く三つ編みの彼女を観察していると、彼女の横にメイド長のアリアさんがやって来た。くそっ、泣いてるだけでゲームのネームドキャラからやってくるとか羨ましいんですけど。ソムニア姫との衝突事故はまだ前世の記憶が甦る前の話なのでノーカンでお願いします。 「ちょっと!そんな魔物みたいな言葉を発してないで仕事しなさい!」  アリアさんは仕事をしていない三つ編みの彼女にお怒りのようだった。そりゃそうだ、アリアさんは優しそうな見た目に反して仕事には厳しい人だから。  しかし三つ編みの彼女は突然現れたアリアさんに感動したのか、ますます泣いた。わかるよその気持ち、でもアリアさんの米神の血管が切れそうだから、少しでも取り繕うか……。  アリアさんの血管を助けるためと、三つ編みの彼女の素性を知るために私はあの軽い修羅場へと突っ込むことを決意し、物陰から飛び出した。 「すいませーんその人体調悪いみたいなのでちょっと休ませますねー!」 「あ、ちょっと!貴女もそう言って仕事をサボるつもりじゃないでしょうね?!」 「後でちゃんとやりますから見逃してくださーい!」 「あ、こら!」  泣き止まない三つ編みの彼女の首根っこを掴んで突風のようにその場から離れていけば、アリアさんの怒声が聞こえてくるもそれに構っている余裕なんてない。私はごめんなさーい!と叫んでは可能な限りの速さでその場から離れた。漫画だったら足元が渦巻いてる。
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