君の色になりたい

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   ——ピピピッ、ピピピッ……  ホテルの備え付けの、安っぽい目覚ましの音で目を覚ました。  布団のなから手だけ出して、手探りで目覚まし時計を探すが、なかなか見つからない。ピピピ、と目覚ましは鳴り続ける。 「うっせえ……」  止めるのは諦めて頭から布団をかぶろうとしたとき、ぴた、と目覚ましの音が止んだ。  たぶん、隣で寝ていたやつが止めてくれた。 「なあ、起きなくていいの? 目覚ましセットしてたの、君だろ?」 「……んあ? そうだっけ……」  まだ覚醒していない頭ではよくわからない。もぞもぞと布団から出て、眠たい目をどうにか開いて時計を見る。 「うげ、もうこんな時間かよ……帰るわ」 「ずいぶん早いな」 「仕事があんだよ」 「えー、どうせ家の手伝いだろ。まだゆっくりしようよ」 「いやだから……仕事だってば」  甘い雰囲気を出しながら腰に手を回してくる相手の手を振り払って、布団から出た。床に散らばった服を身につけ、寝癖でぐちゃぐちゃの派手な金髪頭を手櫛で整え、後ろでひとつに結ぶ。さっさと帰ろうと急いで支度した。 「なあ……俺たち何回目だ?」 「あ? 知らねえよ」  さっきの態度とは一転、急に真面目なトーンで話し始めた相手にうんざりした。今、彼が何の話をしようとしているのか気付かないほど鈍感ではない。 「俺と君、身体の相性はいいと思うんだ。だから、いい加減付き合っても……」 「いや、無理」  ——やっぱり、その話か。  嫌な予想が当たり、相手に聞こえるように大きなため息を吐いた。 「最初から言ってるだろ。俺は誰とも付き合う気はねーよって」  じゃあな、と冷たく言い放ち、青年——冬真(とうま)は、ホテルの部屋を後にした。  人肌に包まれると、ひどく安心する。そう気付いたのは数年前。少年から大人に変わる歳の頃のとき。  母親は家業で忙しいうえに、歳の離れた幼い妹に付きっきり。父親は冬真が中学生のときに急に蒸発した。たぶん、寂しかったのだ。いつも心にすかすか冷たい風が吹いている気がして、満たされなかった。    悪い先輩に着いて行って、女の人と遊ぶようになった。その後は、男女関係なく遊ぶようになった。  会って話して、抱いて、一緒に眠って。別の日はまた別の人と会って、抱かれて、一緒に眠って。抱き合いながら眠ると、すかすかだった心がじわじわと満たされていく。まるで危ない薬に堕ちていくように、どんどん人肌にハマっていった。  誰でもいい。心を満たしてくれて、寂しさを忘れさせてくれるなら誰でもよかった。  人肌恋しいなら、特定の相手を作ればいい。そう言われることは多々あったが、冬真はそうしなかった。  もし、別れてしまったら。一度手に入れたものを失ってしまったら。そう考えるとゾッとしてしまう。  きっと冬馬はその寂しさに、耐えることができない。  ——だったら、最初から作らなければいい。  あんな思いをするのは、もう嫌だ。
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