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冬真が勇気を出して気持ちをぶちまけたのに、なぜか夢にしようとする秋一郎。腹が立ったので、赤くなった頬を思い切りつねってやった。
「うっ、痛い! ゆ、夢じゃない……!」
不自然に片方だけ赤みが増した頬に手を当てながら、秋一郎がぽろぽろと涙を流す。泣き出してしまった秋一郎に、冬真はぎょっとした。さすがに強くつねり過ぎてしまっただろうか。
「え、泣く? ご、ごめんな、強くやりすぎた……うわっ!」
下を向いてぐずぐず鼻を鳴らしていた秋一郎が、急に冬真に抱き着いた。体当たりのようなそれを受け止めきれなくて、冬真はベッドに押し倒される。
「うげっ、お、おい……重い、苦しい、重いってば……」
押し潰されたカエルのような声が出てしまった。人のこと細いとかガリガリとかいう癖に、今は力の限り抱き締められている。ぎゅうぎゅうと肋が締め付けられる。折れるぞ。折れたら責任とってもらおう。
「冬真さん、俺……冬真さんのこと諦められなくて……だから遠くに行って諦めようと思ってたのに……」
「え……っ、そ、なの? ……ごめん」
秋一郎が受験の話をしなかった理由は、やはり冬真にあった。
冬真のはっきりしない返事のせいで、彼は一体どれほど悩んだのだろうか。悩んで悩んで、それでもずっと冬真のことを好きでいてくれた。
「でも、諦められなかった。やっぱり好き。冬真さん、大好き」
冬真の胸に顔を埋めながら、秋一郎が言った。どんな顔をしているか分からなかったが、髪の隙間から真っ赤に染まった耳が見える。それが可愛くて、愛おしくて。冬真はそっと秋一郎の背中に手を回して、ぎゅっと抱き締めた。
「……俺も好きだよ、秋一郎」
好き、というのはどうしてこんなにもドキドキして恥ずかしくて、くすぐったい気持ちになるのだろうか。
今、真っ赤で格好悪い顔をしているに違いない。秋一郎に顔を見られていなくてよかった、とホッとしたのも束の間。
冬真の胸に顔を埋めていた秋一郎が、急に顔を上げた。
「な、な、なまえっ」
「あ? 名前?」
「……初めて、名前呼んでくれた」
「…………そうだったか?」
「っ、うん! 嬉しい……嬉しいことばっかりで、泣きそう」
「もう泣いてんじゃん」
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