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暑くて厳しい夏が終わり、周りの木々が赤く色付き始めた頃。
喫茶コスモス。本日も通常通り営業中、のはずだったが……
急に店の水道がおかしくなったので、本日は急遽定休日。
「どう? 直りそう?」
「いや、全然無理。直る気配がない」
「ええー、冬真なら直せると思ったのに!」
「何で俺が直せると思った……? 俺が何も出来ない奴って知ってるだろ」
店のキッチンのシンクの下を、懐中電灯で照らしながら覗いてみる。水道はなんかおかしいし、シンク下は水漏れでびしょびしょ。母親の由紀美と一緒に家にあった工具をかき集めて、叩いてみたりネジを締めてみたり色々試したが、直る気がしない。諦めてさっさと業者を呼んだ方がいい。
「業者呼ぶなら店開けられないね」
「ついでにエアコンも直したほうがいいんじゃね? 今の季節はいいけど、冬になったら死ぬ」
「そうね〜。じゃあ、さらについでにコンロも直してもらおうよ。一口、ずっとつかなかったし」
「じゃあ、あと棚の裏の壁、穴空いてるから塞いでもらおーぜ。さすがに穴空いたままじゃアレだし……」
水道を直してもらいたいだけだったのに、ついでに、と直して欲しいところを挙げていったらたくさん思った以上にたくさんあった。祖父母の代からある古い建物なので仕方がないが、まさかそんなにボロボロだったとは。
「うーん……これじゃあ1日で終わらないね」
「そんなにガタきてんのか、この店……ってかさ、直す金あんの?」
「いつか改装したいなーって思ってて、改装資金は貯めてあるから大丈夫よ」
冬真の知らないところで、オーナーである母親はしっかり金を貯めていたらしい。金は貯めていたが、改装するには数日間店を閉めなくてはならなくなってしまうので、なかなか踏み切れなかったようだ。
「思い切って、色々直しちゃおっか」
「おー、いいんじゃね?」
そうと決まれば、と母親はさっそく業者に電話をし始めた。その間、冬真はガチャガチャと散らかしたままの工具を片付ける。
話はすぐ進んだようで、思ったより早く電話が終わった。煙草を吸おうと思って、咥えた直後だった。
「工事は2日くらいあれば終わるっぽいんだけど、明日以降じゃないと来れないって」
「えー……どうすんの?」
「水漏れしたままじゃ営業出来ないし、閉めるしかないでしょ」
「まあ、そうだよな」
「だから、冬真休みでいいよ。4日くらい」
「おー、4日……4日も?!」
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