4 -番外編-

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 驚きのあまり、咥えていた煙草が口からポロリと落としてしまった。もったいないが、危ないのでまだ火をつける前でよかった。   「4日もいいのかよ?」 「アンタいたってどうせ何にも出来ないでしょ? 業者の立ち合いは、私がいればいいから」 「まあ、そうだなあ……俺いらねえなあ……」  休みは嬉しいが、4日もやることがない。  急な休み、何もしないで過ごすのは勿体無いが、何をしようか思いつかない。 「たまにはどこか出掛けてきなさいよ。若者らしく、旅行とか」 「旅行って言ってもなあ、そんな急に……」  母親は簡単に言うが、旅行は宿など手配が面倒なので行きたくない。それに一人で行っても、観光など興味のない冬真はどこに行けばいいかわからない。   「どうすっかなあ…………あっ」  さてどうしようかと考えていた時、ひとつの案が思い浮かんだ。  ——そうだ、秋一郎に会いに行くか。  相手の予定も何もわからないので、決行できるかどうかわからないが、これだ、と思った。やりたいことも行きたい場所も思いつかなかった冬真が、唯一、こうしたいと思った。 『急で悪いけど、明日会いに行ってもいいか? それと、泊まってもいい?』  さっそく飛ばしたメッセージに、速攻で既読が付いて、すぐに了承の返事が返ってきた。 『会えるの、たのしみにしてまふ』  急いで返信したのだろうか、彼らしくない誤字を見つけて、くすりと笑ってしまった。  そうと決まれば、はやく新幹線のチケットを取らないと。何の感情も沸かなかった急な連休が、どんどん楽しみになってきた。  秋一郎との関係が『近所の兄ちゃんとその弟分』から『恋人』に変わって、そろそろ1年が経とうとしている。  秋一郎との交際は順調だ。彼が大学進学で地元を出て行ってしまったため、遠距離恋愛になってしまったが、交際はちゃんと続いている。約束通り、ゴールデンウィークも夏休みも地元に帰ってきたし、電話だってほぼ毎日している。  感情表現が下手で寂しがり屋という、かなり面倒な性格をした冬真だが、今のところしっかり遠距離恋愛できている。きっと、秋一郎がマメな性格をしているおかげだ。  秋一郎との交際は順調だが、かなりゆっくりなペースで進んでいる。手は繋いだし、キスもした。昼寝だが、添い寝もしたことがある。だが、それ以上はまだない。  彼がどう考えているのかはわからないが、冬真は先に進んでもいいと思っている。むしろ進みたい。  もともと、よく色んな人と遊んでいたし、気持ちが良いことは好きだ。好きな人とのセックスは特段に気持ち良いという話はよく聞く。なら、秋一郎とするのはどれほど気持ちいいのだろうか。気にならないわけがない。  秋一郎と付き合い始めてからは遊ぶことはなくなったが、性には寛容なつもりだ。秋一郎が望むなら、抱く側でも抱かれる側でもかまわない。  ただ、秋一郎がそういう雰囲気を見せたことはない。  まだ早いと思っているのか、それとも……冬真が男だから、躊躇っているのか。  後者ではないことを信じているが、全く不安ではないと言えば嘘になる。    実は、秋一郎が一人暮らしする家には行ったことがない。会うのは秋一郎が帰省しているときだったので、お泊まりは初めてだ。  先に進むなら、今回のお泊まりがチャンスだ。  絶対にやってやる、と冬真は心に決めた。
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