4 -番外編-

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*  そして、翌日。  地元のターミナル駅から新幹線に乗り、東京駅へ。  地元の駅も人が多いと思っていたが、東京駅は比にならない。正直言って、舐めていた。  広いし路線もたくさんあって、わけがわからない。秋一郎と待ち合わせしていた場所の名前はなんだっけ? 出口が多すぎてどこへ向かえばいいか分からない。そもそも、自分は今どこにいるのだろうか。  ぐう、と腹が鳴った。朝早く出て来たせいで、すっかり腹が減ってしまった。昼頃に着く予定だったので、秋一郎と合流してから一緒に昼食の予定だったのだが、これではいつ合流できるかわからない。  やっぱりホームまで迎えにきて貰えばよかったな、と少し後悔した。  どうしようか、連絡しようかと迷いながらと立ち尽くしていると、前方から見覚えのある人物が手を振って近づいて来た。 「冬真さん!」 「えっ、おっ、秋一郎?」  覚えのある人物、どころではない。こちらへ向かって来たのは秋一郎だった。会えて良かった、とほっとした。それと同時に、久々に彼に会えたのが嬉しくて口角が上がってしまいそうになるのを必死に耐える。秋一郎の前で、緩み切っただらしない顔をするわけにはいかないのだ。 「やっぱり……冬真さんだった! なんか冬真さんみたいな人いるなって思って追いかけてきたけど、待ち合わせ場所と全然違うところにいるじゃん」 「あー……わりい。迷ってた」 「だからホームまで迎えに行くって言ったのに」 「いやあ……行けると思ったんだけどな……」  何してるんだか、と秋一郎が呆れた様子でため息を吐く。これでは、どちらが歳上かわからない。 「無事に合流できたからいいだろ。飯食おうぜ、腹減った」 「いいけど……何食べる?」 「えー、どうすっか。なんか美味いとこ知ってる?」 「うーん、東京駅あまり来ないからよく分からないけど……地下になんかあるっぽい」  こっちだよ、と秋一郎は冬真の手を引いて歩き出した。あまりにも自然に手を繋いだので最初は何とも思わなかったが、しばらくしてここが真っ昼間の駅構内だということに気付いた。 「なあ、手離した方よくね? ここ、駅だし……」 「平気だよ。知ってる人、いないし」 「で、でもなあ……」 「大丈夫だって。東京の人って、思ってる以上に他人に関心無いから」  秋一郎の言う通りだ。すれ違う人に変な視線を向けられているわけではないので、まあいいかと手を繋いだまま歩くことにする。  本当に嫌だったら、秋一郎の手を振り払ってしまえばいい。そうしなかったのは、繋いだ手から伝わる彼の体温が、案外心地よかったから。手を繋いで歩く、なんて初々しいカップルみたいで小っ恥ずかしいと思っていたが、案外、悪くないものだと思った。
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