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呆れられるかも、と思っていたがそうでもなかった。秋一郎はまだ夏月に対して嫉妬の炎をメラメラと燃やしている。そんな心配するようなことはないんだけどなあと思うが、秋一郎はなかなか安心してくれない。
「夏月もいたけど、もうひとり仲良い奴いたんだよ。3人でよく遊んでた」
「3人……もうひとりいたの?」
「ああ、ハルって奴なんだけど……高校卒業して、すぐ就職で地元出てったんだよ」
学生の頃は、冬真と夏月、そしてハルの3人でよく遊んでいた。夏月は小学校から、ハルは中学校から高校まで同じ学校の同級生だ。高校を途中でやめてしまった冬真の、学生時代から繋がりのある数少ない友人だ。
しばらく会っていないハルのことを思い出して、懐かしいなと思った。連絡先は知っているが、なかなか連絡をする機会がなかった。
「3人でいつも馬鹿みたいに遊んでたな……懐かしい。あっ、夏月が好きなのは俺じゃなくてハルだから、安心しろ」
「そうなんだ。それって、学生の頃から? 今も?」
「たぶん。詳しくは教えてくんねーけど」
「そっか……一途なんだね。夏月さんに悪いことしたな」
「なんだよ、ずっと目の敵にしてたくせに」
「だって、夏月さんチャラいからそんな一途な人だと思わなかったし。それに……片想いが長いと、辛いの知ってるから」
「…………ワルカッタナ」
なんか、とても悪いことをしていたんだなあ、という気持ちになってしまった。
「でも、俺は好きになってもらえたから。幸せだよ」
秋一郎の長い腕が、冬真の身体を包み込むように抱きしめた。自分より温かい身体に包まれて、トクンと胸が跳ねた。ついさっきまで他愛のない話をしていたのに、急にこんな恋人っぽい雰囲気に持っていくのは反則だ。
「冬真さん……会いたかった。来てくれて嬉しい」
「……最近、地元で会ったばっかだろ」
「最近って……もう2ヶ月も前だよ? 最近じゃないよ」
遠距離恋愛に慣れてしまったせいか、感覚がおかしくなっている。
寂しくないと言えば嘘になる。けれども、秋一郎が毎日こまめに連絡をくれるおかげで寂しさが和らいでいる。
好きな人の腕の中で彼の香りと体温に包まれていると、だんだんそれだけでは物足りなくなってくる。キスがしたい、と秋一郎の顔を見上げる。彼は優しい眼差しで冬真を見つめながら、コテン、と首を傾げた。
「どうしたの?」
「……いや、その…………き」
「あっ、もしかして、腹減った?」
——いや、違ぇわ!
本当はそう言いたかったが、照れ屋で感情表現が下手な冬真がキスがしたいなんて言えるわけもなく。
「……ああ、ハラヘッタ」
「家の近くに、冬真さんが好きそうな焼き鳥屋があるから、そこに行こう!」
「焼き鳥……」
「ずっと冬真さんと一緒に行ってみたかったんだ。お酒も飲めるし、そこでいい?」
「……おー、いいぜ」
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