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思っていた展開とは違ったが、自分のことを思って夜飯の店まで考えていてくれたのは素直に嬉しい。
そんなことを考えつつも、自分はいつの間にこんな単純な色ボケ野郎になってしまったんだと、頭をかかえたくなった。ぜんぶ、秋一郎のせいだ。
その後一緒に焼き鳥屋に行って夕食を済まし、家に帰って勧められるままに風呂に入る。風呂を出ると、秋一郎のベッドの隣に座布団を並べた寝床が準備されていた。
「あ、冬真さん風呂出たんだね」
「おー、先にわりいな」
「ううん、いいよ。寝るときだけど、うち敷布団ないから、冬真さんはベッド使って」
「え、お前は……?」
「俺は床で平気。こうやって座布団並べれば寝れるから」
一緒に寝ればいいんじゃねえの、とは言えず、浴室に向かう秋一郎の背を見送った。
先日、あんな夢を見た冬真は、もちろんいろいろとやる気満々で来ている。時期的にも秋一郎も少しは意識してくれているだろうと思っていたが、全くそんな雰囲気にならず肩透かしを食らった気分だ。奥手だとは思っていたが、まさかこんなに奥手だったとは。
ごろん、とベッドに横になると急激に眠気が押し寄せた。地元から東京まで移動したし、慣れない人混みの中を歩き回ったせいで疲れていたのだろうか。
一緒に寝よう、とは言えないまま、冬真は眠りについた。
***
冬真が東京に来て2日目、ふたりは東京の観光名所であるスカイツリーに来ていた。朝起きてグダグダと準備をして結局家を出たのは昼頃なので、スカイツリーに着く頃には昼過ぎになってしまっていた。
「おおー、たっけーなあ」
展望デッキから見下ろす東京の街は、まるでおもちゃのように小さく見える。さすが、世界一高い建物なだけある。
窓に張り付くように景色を眺める冬真の横で、秋一郎は地図と照らし合わせながら景色を楽しんでいるようだった。
「なあ、あのデカい橋みたいなの、何?」
「あれは、レインボーブリッジだよ」
「へえー、マジかあ。あれがそうなんだなあ〜」
「天気がいいから、遠くまでよく見えるね」
「そーだなー」
東京にほとんど来たことのない冬真は楽しいが、住んでいる秋一郎はどうだろうかと不安だったが、案外楽しんでいる様子で安心した。
「なんとなく昼に来たけど、これ夜景もやばそうだな」
「確かに。都心は明るいから、綺麗かもね」
夜になって真っ暗になっても、こんなに多くの建物があれば昼と大差ないくらい明るいのだろうか。地元では見れないので、夜の景色も少し気になった。
「今度は、夜に来よう」
さらっと次回の事も考えてくれる秋一郎に、胸がきゅっとなった。未来の約束は、冬真を手放す気はないと言ってくれているように感じて、嬉しくてたまらなかった。
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