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——何をしてるんだ、俺は……
終わった瞬間、一気に自己嫌悪に陥った。人の家で、しかも人のベッドの上で自慰なんて、最悪だ。はあ、と大きなため息を吐いた。今日はため息ばかりだ。
気持ち良かったが、虚しさしかない。心は一切満たされない。きっと秋一郎がいないから。
汚さないようにと気を付けていたのに、結局パンツはベトベトだ。風呂に入って、ついでに秋一郎の分も洗濯してしまおう。まだ午前中だし、幸いなことに今日はとても天気が良い。
洗濯機を回してシャワーを浴びた。バスルームから出ても洗濯が終わっていなかったので、軽く飯を食って、キッチンの換気扇の下で煙草を吸った。最近加熱式タバコに変えたので、あまり臭いは残らない、はず。
キッチンの隅っこにある缶の灰皿は、冬真が持ってきたものではない。冬真が秋一郎の家に来て初めてそれを使うまで、一切使われた形跡のないそれは、秋一郎が用意してくれたものだ。非喫煙者の秋一郎が、冬真のために。そんな小さな気遣いですら嬉しくて、胸がじんわりと温かくなった。
吸い殻を灰皿に捨てると、ちょうど洗濯機がピーピーと鳴った。
日の当たるベランダに洗濯物を干しているうちに、ぽかぽかとして眠くなってきた。やはり、寝不足だったようだ。
洗濯物を干し終えた冬真は、再びベッドにごろんと横になった。秋一郎はまだまだ帰ってこないし、やることも特にない。二度寝くらい許されるだろう。
ベッドには、もう秋一郎の体温は残っていなかった。
——ああ、早く帰って来ねえかな。
この家に冬真が泊まるのは、今日が最後。明日の最終の新幹線で冬真は地元に帰る。
きっと明日はバタバタするから、今日が最後のチャンスだ。
今日こそ誤魔化さないで、ちゃんと誘ってみよう。断られるのは怖いが、怖がって曖昧なことしかしないで相手に伝わらないのでは意味がない。
秋一郎は言わなくても分かってくれるなんて、甘えてばかりでは、いつまで経っても進展は訪れない。
そんなことを考えながら横になっていると、だんだん眠くなってきた。先ほど抜いたおかげか、身体は朝起きたときよりほんの少しすっきりしている。
眠気に襲われるまま、冬真は目を閉じた。
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