【01】 本屋見張り

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【01】 本屋見張り

本屋に並んだ新刊の数々。 モノクロの表紙は一瞬でも目を引こうと、赤裸々なタイトルと煽りが大きな文字で描かれている。絵も申し訳程度に入っているが、どれも文字に消されて何が描かれているのかはっきりとしない。 そんな中で、一冊の本が浮き上がるように目立っていた。 表紙が真っ黒で、真ん中に十字架だけが白抜きされている。 タイトルは白地で、『夜叉の禁忌』と記されている。 ……よし、インパクトはばっちりだ。 小一時間その本屋の軒先にいたが、『夜叉の禁忌』は飛ぶように売れていた。 作家の名前は神凪久遠。美麗でまだ歳も若い新進気鋭の作家、つまり俺だ。『夜叉の禁忌』は、今日発売の俺の書いた本だ。内容は、夜叉には五つの禁忌があって、主人公の夜叉が、恋人の為に、それをひとつづつ破っていくたび、夜叉の体の一部がもがれていって、最後は芋虫みたいになってしまうという、所謂ホラーだ。 だが、唯のホラーとは訳が違う。 切ない悲恋もの。描写も文学的で、文芸界では結構な話題になっている。 何故ホラーを書いているかというと、ホラー界はまだ有名な先駆者がいないからだ。ホラー界で、天下を取ってやろうというわけだ。 ……なんて言っても、本当は恐ろしい、おどろおどろしい描写が書いてて楽しいからだった。 飛び出た内臓とかミミズが数百匹絡み合って、山になってうじゃうじゃ這いつくばってる図なんて、最高じゃないか? 最高にエロい。 こんな俺を恋人は『変態』と軽蔑した目で呼ぶが、グロテスクなものにリビドーを感じてしまうのは比較的一般的な話ではないか。え?違う? 脳みそ食べる蛆とか、めちゃくちゃ燃えない? 性的衝動に駆られない? 読者諸君まで俺を変質者扱いするのはやめて頂きたい。
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